fragrance｜桃story ページ13
紫✕桃
引き続きブラックです。
──────────────────────
桃side
ガチャ
玄関の鍵を開ける音がする。
眠れないまま朝を迎えた俺がいる寝室に、忍ばせる事もなく近付いてくる足音。
愛おしい人の足音なのに、今はただ胸を締め付ける苦しい音。
キィ
扉に背を向けて寝ているから、俺の様子は濱ちゃんに見えていないはず。
布団の中で胸元のパジャマをギュッと握る。
お願いや、このまま知らんぷりしてて…。
紫「…望」
ドクンと胸が鳴る。
紫「望？」
あぁ、なんで
優しい声で名前を呼びながら、俺の頭をふわりと撫でる。
「……はまちゃ？」
紫「ん。おはよ。昨日は帰って来れんくてごめんな」
「……ええよ」
昨日はどこにおったの？
なんて、
聞くまでもなく分かっている。
もちろんそれを口に出す勇気もない。
「おはよ。…ぎゅーして」
紫「ふふ、望は甘えたやなぁ」
望は、って誰と比べてる？
いま濱ちゃんの頭の中に浮かんでるのは誰の顔？
部屋着に着替えて隣に滑り込むと、筋肉質の胸にすっぽりと収められる。
優しく抱きしられて嬉しいのに、ぴったりとくっついた身体からは俺の嫌いな香りがする。
「……なぁ」
紫「…ん？」
車の中にあったZippoは誰から貰ったん？
タバコと、もう一つは誰の香りなん？
「……なんでこんな早い時間に起こしたん。まだ眠いんやけど」
紫「望の声が聞きたくなってん。ごめんなぁ」
狡い男。
わざわざ俺の反応を見て毎回確認してるんやろ？
分かってんねん。
パーカーのファスナーを下げ、目の前にある鎖骨近くのホクロに強く唇を押し当てる。
紫「…っ、望、痕つけたらあかんて」
そう言いながらも、決して強く拒否しない。
あまり長く残らない程度に何ヶ所かに痕をつける。
「…このくらい大丈夫やろ。半日も持たんて」
そして、首筋に噛み付く。
紫「…痛っ！…その噛みグセ、ほんまどこで覚えてきたん」
あほ。こうして俺のやって見せつけておかなあかん様にしたのは誰やねん。
腰に回された手にグッと力を込めて
「…望にも痕つけたくなるやろ」
甘く低い声でそう囁く。
「つけたらええやん」
わざと上目遣いで見上げ「つけて」と言い直す。
あいつには絶対つけない痕を、身体中につけて欲しい。
ほら。
またそうやって嬉しそうに笑う。
その顔に濱ちゃんは俺のものなのだと思える。
どうしたって許してしまう。
「濱ちゃん、好き、大好き」
はやく。
その嫌な香りを俺で上書きさせて。
end
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作者名：JWpurple
| 作成日時：2021年5月16日 20時
