伍 ページ8
白米と、焼き魚、出汁巻き、ほうれん草の煮浸し、味噌汁。
……相手は柱の家だが、大丈夫だろうか。
Aは頭を抱えそうになった。
普通だ。普通すぎる。すごく普通の朝ごはんだ。
藤花は由緒正しき家系だ。だからといって裕福なわけではない。
医学の心得のためには語学が不可欠。語学には金がかかる。
さらに医薬品の支出も馬鹿にならない。科学技術の進歩が西洋に比べて遅れているのだ、この国は。
そうなれば手元に残る金は多くない。つまり食事に良いものをまわすことも難しいのだ。
とりあえず一汁三菜ではある……が、魚は良いものでもなんでもないし、味噌汁に至ってはかさ増しにさつまいもを入れている……。
かさ増しにさつまいもを使っているなんて、元武家として恥ずかしいものだ。特級階級でもなんでもないので、文句は言っていられない。
「……お待たせしました」
恐る恐る盆をもっていく。
「ありがとう! 」
杏寿郎はそんなAを気にすることもなく礼を述べた。
嫁入り前に、と思ったが嫁入り前にこの方に長襦袢の姿を見られているのだ。今更恥じらうことでもないのかもしれない。
母と妹は様子を伺って席を外しているらしい。仕方がないので先に食べてしまうことにした。
手を合わせて、味噌汁を飲む。
味噌汁のかさ増しにさつまいもはよく使うが……相手は煉獄家だ。
Aは恐る恐る杏寿郎を見た。
「うまい!! 」
家が揺れるくらいの声だ。初めて聞いた母や妹は腰を抜かしたんじゃないだろうか。
「うまい! 」
「ほ、本当ですか? 」
杏寿郎がAを見る。
「うまい!! 」
「……ふふ、ありがとうございます」
本当らしい。
Aは安心して微笑んで食事を続ける。
うまいうまいと言いながら食事をする杏寿郎と共にいるのはなんだか気分がいい。
杏寿郎は味噌汁に手を伸ばした。
「わっしょい!! 」
「えっ」
別パターンもあるらしい。
困惑して杏寿郎を見る。さっきよりもちょっと嬉しそうだ。もしかして、さつまいもの味噌汁が好みなのだろうか。
……好きなものがわかりやすいのは助かるかも。
「わっしょい! 」
「お気に召したみたいで、良かったです」
この会話を母や妹が聞いていたら困惑するだろうな。そんなことを考えながら食事を続ける。
杏寿郎が賛辞の言葉を述べるたびに空気が揺れる。
びっくりするけど、悪くないな、と思いながらAは微笑んだ。
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作者名:あくびさん | 作成日時:2021年2月13日 10時