【鬼滅の刃】瀬を早み【煉獄杏寿郎】 (ページ22)

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逢はむとぞ思うページ22

「まあ、それ全部チョコレートですか？随分ともらうんですね」
「ああ、有難いことだ」
いつものように明日の注文をしにきた杏寿郎の持つ袋にギョッとする。
綺麗な包装紙に包まれたそれ。今日はバレンタインデーだ。

そういえば高校生の頃は先生にあげたり友達にあげたり、好きな人にあげたりしていたかもしれない。
先生という立場も相まって沢山もらうのだろう。加えてこの人柄の良さだ。
先生に憧れる人だけではなく、人柄が好きだという理由からでももらうのだろう。

「はい、明日のご注文ありがとうございます」
恥ずかしい。山ほどチョコレートを持っている人に私もチョコレートを渡したいとは言えない。
それも手作りだ。バレンタインデーに弁当を購入したお客さんに渡している市販のものとは違う、あれこれ悩んで作ったもの。

Aは後ろ手にチョコレートを隠した。
良い大人が、何を少女のようなことをしているのだろうか。

「……姉さん、渡し忘れてるものあるよ」
後ろからぶっきらぼうな声。妹が呆れ顔で立っていた。
「えっ、お客様控えはお渡ししましたよね」
「うむ、これだな」
「あーもう、中学生じゃないんだから」
妹は呆れきってAからチョコレートをひったくった。

「あっ、ちょっ、ちょっとまって！それ……」
「煉獄先生、これあなたに。姉さんがずっと悩んで作ってたんです」
顔から火が出そうだ。こんな、子供みたいな情けないところを。
思わず俯いてしまって杏寿郎の顔が見えない。
「じゃ、そういうことで」

奔放な妹は気まぐれにその場を去ってしまった。
「す、すみません、お渡しするつもりはなくて、その……あの、ご迷惑を、おかけしてしまって」
言葉がスムーズに出てこない。ちらりと杏寿郎の顔を見ると、彼の大きな目はさらに大きく見開かれていた。
ほんの少し、頬が紅潮しているような気もする。

「ありがとう！貰えるとは思っていなかったから、よもやよもやだ」
杏寿郎は嬉しそうに顔を綻ばせる。受け取ってもらえた。
心臓が止まりそうだ。
「礼はどうしようか、そうだ、能を見に行こう！帰りにどこかで食事もしないか、Aが困らなければ」
「困るなんてそんな！ ……嬉しいです。楽しみにしてます」
二人は微笑み合う。その日は着物でも着ていこうか。綺麗な藤色の着物を。
そんなことを考えながら、Aは幸せな気持ちで満たされていた。