【鬼滅の刃】瀬を早み【煉獄杏寿郎】 (ページ16)

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拾参ページ16

耳飾りをした男の子の腹部の傷を縫合して、Aは安堵のため息をついた。
出血を自力で抑えていたみたいだし、この子は鍛えているから痛みに対して臓器は無事だ。じきに傷は治るだろう。
「あ……ありがとうございます。あっ、乗客の人たちは！？」
「もう皆ここでできる処置はしました。今はご自身のお身体のことを大切に」

男の子はじっとAの顔を見る。
きっと優しい子なのだろう。聡い子なのだろう。
「しばらくは蝶の屋敷で養生した方が良いでしょう。私の方からも連絡はしておくから」

馬鹿な人。共に守ると契っているのに、あなたがいなくて私は一体いかようにして人々を守れば良いのか。
片翼をなくした鳥がいかようにして飛べるというのか。

Aは意識を失ったまま泣いている金髪の男の子のところへ歩み寄る。
ほとんど怪我はない。何故か比較的新しい怪我はアルコールで拭って清潔な綿を当てておいた。

あと1人。Aは猪の頭を被った少年のところに向かった。

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炭治郎に治療を施した彼女の匂い。
ほとんど何もしなかったけれど、ほんの少しだけ、水面が揺れるように絶望するほどの悲しみを感じた。
この人は一体誰なんだ？そう思っているうちに彼女は善逸の様子を見て、処置を終えた。

猪之助は、まだボロボロと泣いている。
「クソっ！お前が、お前が来るのがもうちょっと早けりゃあ！どうにかなったんじゃねぇのか、あぁぁ！！」
猪之助にそう言われた刹那、彼女の動きが一瞬だけ止まる。
悲しみ。後悔。自責の念。愛情。憎悪。苦しみ。恋慕。
雷が落ちるような一瞬にたくさんの匂いがして、瞬きした頃には全て消え失せていた。

「猪之助！そんな酷いこと言っちゃダメだ！」
「……大丈夫」
彼女は儚げな笑みを浮かべた。
「打撲くらいで、あとは問題なさそうね」
慈母のように微笑んで、猪之助に湿布を貼っている。
あんなに激しい感情を抑えながら。

猪之助の処置を終えると、彼女は立ち上がってまっすぐ煉獄さんの亡骸を見た。匂いはしない。
「あ、あの！煉獄さんのお知り合いですか？」
炭治郎はたまらず声をかけた。
彼女はほんの一瞬はっとすると、すぐに笑顔を取り戻す。
「私は医師で……死化粧師です」

彼女は煉獄さんに歩み寄った。地に膝をついて煉獄さんと目線を合わし、彼の頬に手を触れる。
母が子にするように、あるいは、互いを想い合う恋人同士のように。