憶う (ページ10)

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紫耀さんのことを思い出す。
無意識に、ただなんとなく紫耀さんに会いたかった。
隣にいるのは間違いなくクラスの男の子だけど、それでも紫耀さんに会いたくなってしまった。
意味もなくただ、こういう日は大抵紫耀さんのことを考えていたからだと思う。

髙橋優斗の話は結構面白い。
これは今朝知ったことだ。彼は視野が広くて良いなと思う。私の予想の反対側までしっかり見えている。

「あの、さ、」

さっきとは違う空気感を察す。
聞かれる内容はだいたいわかっている。
でもやっぱり、答え方は分からずにいた。聞かないで欲しいと思うけれど、ここまで一緒にいて言わないわけにもいかないなとも思う。

ああ。
やっぱりこんな日は紫耀さんに会いたい。
頭の中は紫耀さんが私に隠れて吸うタバコの匂いで包まれてしまう。

「なんかあった、？」

髙橋優斗がゆっくりと私の顔色を伺うように問う。
その眼差しがあまりにも真っ直ぐで、髙橋優斗的だなあとなんだか少しホッとする。

「外の空気をね、吸いたくなって」
「そっか」
「うん」
「そっっかぁぁーーーー！」

うーんと伸びをして彼はこちらを見て笑う。
「なんか、めっちゃ心配した」なんて頭を掻きながら照れて、目を逸らす髙橋優斗はなんというか、とても、良い。
それから、「俺でよければなんでも聞くから」なんて気をつかってくれたので素直に「ありがとう」と返す。

多分、見え見えの嘘はバレていたと思うしなんなら倍くらい気を遣わせてしまったけれど、このタイミングで1人にならなくて良かったなと思った。
髙橋優斗が喧嘩してくれてよかったと不謹慎ながらに少し思った。

だってほら、
紫耀さんはこちらから会いに行かないと会えないから。

「ありがとう」
「....2回言ったな」
「うん。2回言った」

それから2人とも大人しく笑って、また髙橋優斗は自分の身の回りの話をしてくれた。
私が本を読むことが好きだと伝えると、「学校でもよく読んでるもんな！」と言われて普段から見られていることにちょっとドキッとした。

「あ、家ここ」
「おう」
「送ってくれてありがとう」
「全然！こんくらい普通！」
「はは。じゃあね」
「おう！明日学校で！」

お互いに手を振る。
私は、彼が進み始めたら家に入ろうと思っているのだけど中々動かないのでおかしな時間が流れる。
ちょっと笑ってから「早く入りな」と言われるのでそのまま「うん」と返して家に入った。