憶う (ページ5)

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教室に入ると、髙橋優斗は流されるまま大勢の男子たちの輪の中に連れ込まれて行く。
髙橋優斗は圧倒的な主人公タイプだから仕方ない。友達が多いのだ。少し羨ましく思ったりもするけれど、私には最低限があればいい。紫耀さんがいればいい。

大盛り上がりの男子の中で、意味わからないけどとりあえずノっている(ように見える)髙橋優斗を横目に自席に座る。
昨日の夜読み途中だった少し薄目の文庫本を開いて読もうとしたのだけど、なんだか読む気にならなくて閉じた。
そっちの方が詩的な気がした。1度伸びをして頬杖を着きながら髙橋優斗のことを見ていた。

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放課後のチャイムが鳴って生徒が一斉に校門から外へと出ていく。私はといえば今週は掃除当番なので、大人しく階段の清掃を行っていた。
今日は紫耀さんは国外にいるのだから急いで掃除を終わらせる必要も、寄り道をしないで帰る必要も無い。それが少し寂しくて、せっかく朝髙橋優斗が消してくれた雨に対する憂鬱さが戻ってきそうになる。

掃除が終わって、待っていてくれた友達の元へ駆け寄る。「ありがとう」「うん。おつかれ」なんて、とても端的で思いやりの籠った言葉を掛け合うと足並みを揃えて門の外へと出る。私の友達はみんな優しい。
私を取り巻く世界は、贅沢なくらい優しい。

しばらく歩いた後、駅で友達と別れると私は電車に乗りこんだ。
甘いラブソングを耳に流して、なんとなく覚えた歌詞を声に出さずに口ずさむ。夕方の電車は人が少なくて好きだ。

家に着くと、リビングにある仏壇に唐揚げが置いてあることに気がつく。その唐揚げは、今日のお弁当に入っていたものだ。
燃えて短くなった線香を見つめる。お母さんもお父さんも毎日お姉ちゃんの仏壇の前で手を合わせる。
朝は私のお弁当の具を余分に作って姉の元へ。夜は夕飯を余分に作って姉の元へ。

あぁ。結局私は、2分の1の愛情も貰えない。
お姉ちゃんはずるい。死んだ方が愛されるだなんて、そんなの、本当に。

衝動的に仏壇のろうそくに火をつけて、線香へと移す。
手を合わせて、ただひたすら心の中で姉に向かって唱える。

「お姉ちゃん、私はやっぱりお姉ちゃんが嫌いだ。嫌い。大っ嫌い。私が死ねばよかった。お姉ちゃんは生きてても愛されたんだから。私が死ぬべきだったの。出来の悪い子が残されるなんて本当にパパとママが可哀想。私が可哀想。」

心臓が痛くて、泣いた。