Scene6 -9 ページ9
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でもきっと、この先、めったに出会うことはできないだろう。
放っておけない好きな人、なんて。
「石動A」
「はい」
「卒業おめでとう……さよなら、放っておけなかった女の子」
「さようなら…放っておけない愚かな先生」
ゆらりと先生の瞳が波打った気がしたことが、私の見間違いではなければいいと思う。
愚かなと口に出す私に何も言わずに微笑む先生は、愚かな私をどれだけ覚えていてくれるだろうか。
振り向くことはせず一思いに階段を駆け下りた。
こんな時でも先生は私とは別々に階段を下りるだろう。
それが私たちの運命なのだから仕方がない。
私は生徒で、先生は教師だった。
ただそれだけ。
あまりにもありふれた、それだけのことだった。
昇降口を抜ける。
校庭にはまだ別れを惜しむ生徒の姿が多くあった。
その中には生徒にせがまれて一緒に写真を撮っている大野先生や二宮先生の姿もある。
櫻井先生もきっと多くの生徒にせがまれるだろうけれど、今はまだ、校舎の中だ。
「A」
「あれ、潤くん…帰ってなかったの」
「お前と帰ろうと思って」
正門の傍で女子生徒の写真撮影に応じていた潤くんが私を見つけて駆け寄ってくる。
途中で放り出された女子生徒たちの視線を一身に受けていてもそれを気にする余裕は今の私にはなかった。
「A……」
「なに？」
「……いや、なんでもない。帰りにおやつでも食うか」
「賛成」
言葉は震えてなかったと思うけど。
私が泣きそうになっていることに潤くんはたぶん気づいてた。
何も言わずに勝手に私の手を引いて、卒業にあふれた学校を抜け出す。
校舎を振り返るような余力はもう、これっぽっちも残っていなかった。
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作者名：iCHiKA
| 作成日時：2020年6月6日 16時
