Scene6 -7 ページ7
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一歩ずつ。
さよならが近づいている。
階段を踏みしめながら私はそう思っていた。
屋上の近く。
愚かな二人が可哀そうなお互いを慰め合った場所。
特別授業と称して二人きりで過ごしていた多目的室で、その人は待っていた。
あんまり咲いていない桜とその下で別れを惜しむ制服姿を見下ろしたまま。
「遅かったな」
「すみません」
約束の時間を少し過ぎてしまった。
潤くんと二宮先生につかまったからだけど、きっと私には必要な時間だったから櫻井先生には許してもらいたい。
「合格したってな」
「はい…おかげさまで」
窓のカーテンを櫻井先生が閉める。
外に広がっていた景色が見えなくなると、私の視界には櫻井先生しか残らない。
大きな目をたたえた整った顔が私を見下ろしている。
「おめでとう、春からお前は俺の後輩だな」
「はい」
「生徒じゃなくて、後輩だ」
「……はい」
言葉を重ねる先生に頷いて見せる。
一歩、二歩、先生が歩み寄ってくる。
私はただ立ったまま、近づく先生の顔を見つめていた。
ゆらりと手が持ち上げられる。
そろり、伸ばされた手が、頭にゆっくり乗せられた。
ぽん、ぽんと、ためらいがちに頭をたたく。
「卒業おめでとう、石動」
「…ありがとう、櫻井先生」
先生、その言葉が持つ特別な響きをかみしめながら私は先生の名前を呼んだ。
決して超えることの出来ない私と恋しい人の隔たり。
頭を撫でていた手が止まる。
指の背が、するりと頬を撫でた。
「っ、先生？」
そう呼ばなければあふれ出しそうで。
私は怖くて呼びかける。
すぐそばで私の目をのぞき込む先生の整った顔に、ふっとあきらめのような表情が広がった。
「やっと…やっと、卒業できる……お前の先生から」
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作者名：iCHiKA
| 作成日時：2020年6月6日 16時
