Scene6 -5 ページ5
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「ほら、卒業祝いだ」
「なぁに、これ」
「大したものじゃない。ボールペンだ」
その言葉の通り包み紙の中から出てきたのはボールペンだった。
ボールペンだったけど、
「これ、大したものだよね、先生」
ブランドロゴが掘られた上品なピンクブラウンのボールペン。
ブランド名しか知らないから値段はわからないけど、千円や二千円で買える代物ではないはずだ。
「ダイヤの付いたネックレスとかでもよかったんだけど」
「ボールペンでいいですありがとうございます」
「ふん、最初っからそう言え」
冗談ともつかないようなトーンで言い出す先生に口を挟んだら笑われた。
二宮先生らしいこの笑い方が胸を締め付ける。
本当に、ダイヤの付いたネックレスでもいいと思っていたのならば。
私みたいな女の子はきっと二宮先生にはふさわしくない。
優しくて、一途な先生に、愚かな女の子は不釣り合いだ。
私なんかがこの人の愛に包まれるべきなんかじゃない。
「一歩大人になるお前に選別だ。黙って受け取れ……そのくらい許せよ」
「っ、うん」
息みたいな声でぽつりとしゃべる先生の声が鼓膜を揺らす。
泣きそうになって、慌てて、ぎゅうと目を閉じて耐え抜いた。
私はどうして、どうして。
握りしめた手の中でボールペンの入った立派な箱をつぶしてしまわないように。
胸に抱いてまた、こみ上げる涙を飲み込んだ。
飲み込んだ涙の代わりに。
息みたいな声が漏れる。
「ねぇ先生…どうして私なの」
自分から聞くのもなんだか勇気がなくて一度も聞いたことがなかったその質問が気が付いた時には口から滑り出ていた。
弱々しく空気を震わせた言葉はたぶん、二宮先生にも聞こえたはずだ。
「ぅん？そうだな…」
きゅっと唇を結んで先生の目が窓の向こうに逸れる。
桜はまだあんまり咲いてないからそこから見える景色はさみしげだ。
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作者名：iCHiKA
| 作成日時：2020年6月6日 16時
