SideStory -3 ページ25
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少女が彼女に似ていたのは俺が少女に恋に落ちたその一瞬だけのことだった。
真っ白いリネンに包まれたベッド。
青白い顔。
散らばった茶色い髪。
閉じられた瞳。
俺の目に映ったのは亡くした恋人と見紛う光景だった。
息が詰まって、そして一瞬で惹かれてしまった。
もうずいぶんと経つというのに俺は彼女に似ているだけでこんなに簡単にほかのやつを好きになってしまうのかと自分でも驚いた。
けれど、似ていたのはそのほんの一瞬だけ。
「おい、お前どこの生徒だ？」
うっすらと目を開けた女子生徒に俺は平静を装って声を掛けた。
女子生徒は眩しそうに目を細めて俺を見上げて、思ったよりしっかりとした声で一年二組だと答えた。
「調子悪いのか」
「……そんなとこです」
曖昧な言葉にすぐにピンと着て俺はため息を吐く。
「サボるな、授業出て来い」
「いや」
「……お前な」
違った。
全然違った。
清楚で優しかった彼女とは似ても似つかない。
似ているのは見た目だけでそれ以外は全然違う。
俺の脳は高速でその女子生徒への一瞬の恋心を間違いだと結論付けて心から押し出そうとする。
「……ねぇ、先生」
「なんだよ」
「名前なんていうの」
「……二宮和也」
似ていない。
それなのに。
俺の心は探していた花をようやく見つけたような妙な幸福感にあふれていた。
意味も分からないまま俺はただ自分の名前を名乗る。
女子生徒は眠そうに目をこすって、散らばった髪を鬱陶しそうに払いのけた。
「二宮先生、お昼休みになったら起こして」
「おいコラまてこの不良生徒」
彼女は春に咲く白いシロバナタンポポのような女性だった。
けれど俺の嫌味をものともせず白い布団を引っ張り上げるそいつはどんな場所でもたくましく咲くようなどこにでもある黄色いたんぽぽのようだった。
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作者名：iCHiKA
| 作成日時：2020年6月6日 16時
