SideStory サマーダンデライオン ページ23
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あわよくばこのままこいつが俺を好きになってくれればいい。
そうれすばなんのわだかまりもなく俺はこいつの腕を引いて歩くことができる。
だけど今はまだ、その手に触れることすら怖かった。
触れたが最後そのまますり抜けてどこかへ行ってしまうんじゃないかと、柄にもなくそんなことを思う。
それは咲き遅れて夏にひっそりと咲いた、たんぽぽを憐れむようなものかもしれない。
浮かれているつもりはない。
だけどスピーカーから流される祭囃子は意味もなく心を浮立たせる。
いつもの白衣とはかけ離れたTシャツに短パン。
サンダルを引っかけてやってきたお祭りは別世界のようだった。
「二宮先生、こんばんは」
「おう」
「どーも」
「……松本、なんだその目は」
「いいえ。二宮先生と会うなんて偶然ですね」
「そうだな」
偶然だとは思ってないだろう松本の厳しい視線を受け流しながら俺はそいつの身体を上から下へと見て、そしてまた上へと視線を滑らせる。
珍しく頭のところでくるりと巻かれた茶色い髪はそいつが首を揺らすたびに風鈴のようにゆらゆらと揺れた。
「先生？」
「馬子にも衣装だな」
「褒めてない」
「これ以上なく褒めてんだろ」
クツクツと笑ってやればそいつはむっとして顔を背ける。
松本は幼馴染の機嫌を取るように甚平の裾からがま口財布を出した。
「ほらA、まず何食う？」
「やっぱ綿あめからでしょ」
「だな」
分かり合った双子のように二人は顔を見合わせて笑う。
俺の複雑な心を知らない少女は淡い桃色の浴衣の裾をゆうらりと揺らして境内を奥へと進みだした。
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作者名：iCHiKA
| 作成日時：2020年6月6日 16時
