Scene5 -7 ページ36
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櫻井先生がパチパチと瞬きをしている。
やがて眉を下げて、広げていた教科書とプリントを整え始めた。
「そりゃよかったよ。お前に嫌われなくて」
「っ……そう、ですか…」
今日が最後だからかもしれない。
櫻井先生が紡ぐ言葉は、いつもよりずいぶんと、エゴにあふれている。
私の言葉がそれだけエゴにあふれていた証拠かもしれない。
「仕方ない。今日は教科書を読むだけにしよう」
この数か月で使い込んだ教科書を広げる。
端と端をお互いにつまんで、身を寄せ合って覗きこむ。
そこには私たちのような人間がうまく生きていく方法なんて書いてあるわけじゃなかったけど。
櫻井先生とこうして過ごすことができたこの数か月は確かに私にとって生きやすい時間になった。
それも今日で最後だと思うとどうしても寂しさがこみ上げる。
「…どうした」
英文を読み上げていた私の声が途切れたからか、先生が小首をかしげて私の顔をのぞき込む。
泣きたいわけじゃないのに、いざ口を開こうとしたら泣いてしまいそうになった。
なんとかそれを喉の奥に押し込んで、それから、薄く笑って見せる。
「櫻井先生と二人になれなくなるのは、寂しいです」
アウトだったかもしれない。
だけど雰囲気ではなく、ちゃんと伝わる言葉で…伝わってしまう、言葉で、言っておきたかった。
「……可愛いこと言うな、お前」
思いがけず先生がきゅうと口角をあげる。
意地悪なわけでも、呆れたわけでもない。
「でも…好きだ…、なんて、言ってやんないよ。俺はお前の先生だからね」
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作者名：iCHiKA
| 作成日時：2020年5月17日 15時
