Scene4 -5 ページ25
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好き、とは違う感情のはずなのに。
どうしても放っておけなくなってしまう。
「行こう」
二宮先生が背を向けて先に歩き出す。
それを追いかけようと一歩を踏み出したけど、私は未練たらしく後ろを振り返る。
人混みの向こうに消えてしまった櫻井先生の様子は分からない。
だけど櫻井先生はあの派手な女の人のことも、「放っておけない」んだろうか。
私の愚かな性と同じように。
「A」
二宮先生が私の名前を呼ぶ。
私は傘の柄を持つ手に力を込めて、意を決して二宮先生の顔を見た。
「ごめんなさい、先生。私どうしても、櫻井先生の様子が気になります」
「……ほっとけって言っただろ」
いじけるとも違う。
怒るでもない。
困るでもない。
何とも言い難い声色で二宮先生は小さく言葉を吐く。
「……放っておけません」
「っ」
また先生が息をのんだ。
視線を雨に濡れた地面に降ろして、色素の薄い眉を下げる。
だけどほんの少しの沈黙を終えると、二宮先生はふいに腕を私へと伸ばした。
「それ俺のだから返せ」
「あっ…」
傘を取り上げられて雨粒が髪をぬらす。
「どこにでも行けばいいだろ」
優しいわけじゃなかった。
冷たいわけでもなかった。
ただ呆れたみたいに言った二宮先生は、自分だけ傘の下でつまらなそうに顔をそらした。
「っ、ごめんなさい、先生…っ」
傘から解放されたのだと分かった。
二宮先生の傘を返してしまった私は雨にぬれる。
だけどもう、どこへでも行けるのだと知った。
泣きそうになりながら二宮先生に背を向ける。
放っておけない、人を決めるのは、いつだってバグみたいな複雑な心なのだ。
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作者名：iCHiKA
| 作成日時：2020年5月17日 15時
