Scene4 -3 ページ23
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「A」
「……二宮先生」
呼ばれて振り返れば傘を二本持った二宮先生が立っていた。
「傘持ってなかったなと思って、迎えに来たよ」
「ありがとうございます」
付き合うようになって分かったことだけど二宮先生は結構細かい人だった。
寝る前には必ず電話をしてくれるし、切る前には絶対に「愛してるよ」と一言告げる。
こうして傘を持っていないことに気が付けば。
仕事を放り出して迎えに来てくれる。
……いろいろと、倫理的にアウトな部分が多いことは今更だ。
そもそも教師と生徒のお付き合いなんて、倫理的に許されるものじゃない。
今のところバレる気配はないけれど。
意外なことに櫻井先生は二宮先生の私への言動を誰かに伝えるようなことはしなかったようだ。
倫理観にうるさそうな櫻井先生にしては珍しい行動である。
並んで歩くと二宮先生は必ず鞄ひとつ分くらい私との間に空間を開ける。
そして外では絶対に手を繋がない。
「俺は翔ちゃんみたいに優しい常識人じゃないから。先生と生徒だろうが遠慮してやらないよ」なんて言ったわりに二宮先生は想像以上に慎重だった。
おかげさまで私たちのタブーな関係は誰にもバレていない。
傘をさしてアーケード街を出る。
駅前は人が多い。
学生服の姿もあれば主婦らしき姿もある。
数多の人がすれ違う駅前で、私は視界に今日会えなかった人の姿を見た気がして足を止めた。
「A？」
一歩先まで進んで私に気が付いた二宮先生が振り返る。
けれど私の目はとある男女に釘付けだった。
「なにを…あ」
二宮先生が私の視線を追う。
そして小さく声を漏らした。
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作者名：iCHiKA
| 作成日時：2020年5月17日 15時
