Scene3 -9 ページ19
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櫻井先生の目は一瞬私を見ただけですぐに二宮先生を見据える。
「見てわかんないの翔ちゃん。いつもの女たちとはしないわけ？キス」
「そんなこと聞いてるんじゃねぇよ」
「じゃあなによ。邪魔しないでほしかったんだけど」
「石動が嫌がってんだろ」
「嫌だったの？石動」
二宮先生が薄く笑う。
こちらを見た目はやっぱり試すみたいに細められている。
つられて櫻井先生が私を見たから、その大きな瞳と目が合った。
「あ…」
「石動、大丈夫か」
心配そうなどこか固い声で問われて、私は息を止める。
どう返事をしたらいいのかがわからない。
もう…わからないことだらけだ。
「……っ」
何か言わなきゃ。
そう思ったのに息が言葉にならずに唇から漏れる。
「俺のことが嫌いか、石動」
「！」
ダメだった。
鼓膜を揺らしたその声が、私の脳に染み込んでいく。
眉を下げて、悲しそうな顔で、二宮先生が私を見ていた。
その顔が、声が。
私のどうしようもない愚かな性分を揺さぶっていく。
「嫌いなわけじゃ……ない……です…」
櫻井先生が息をのんだような気配がしたけど。
顔をあげていることができなくてうつむいた私には正しいことは分からない。
ただ二宮先生がふっと笑ったことだけは空気の振動で分かるような気がした。
「じゃあ翔ちゃん、石動の面倒は俺が見るから。ただの、英語教師は出てってくれる」
ただの、という三文字を強調する二宮先生。
少しの間をおいて、櫻井先生が小さなため息をついた。
「わかった。……石動、今日使ったプリント松本に預けておくから」
「……わかり、ました…」
何とかか細い声でそれだけを返す。
うつむいた視界の中、扉の開く音がどこか遠くに聞こえていた。
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作者名：iCHiKA
| 作成日時：2020年5月17日 15時
