◆ ページ6
オクリ「………そして辿り着いたのが、この電脳世界でした」
オクリは一気に話すと、緊張していたのか大きく息を吐いた。
彼女は大切な人を守ろうとして守れず、自分が死ぬ直前に、彼らの変わり果てた姿を見た。
それがどれだけ辛い出来事だったのか、経験してない俺には想像がつかない。
でも、この話でオクリの目的はわかった。
オクリは、カグヤとナツオリという人を探している。
以前から電脳世界にいるのに出ようとしないのも、ここに2人がいる可能性が否めないからだろう。
アシレ「……………あんたは間違ってないと思うよ」
それくらいしか言えることが無く、他にも言おうとした言葉は、どれも喉の奥でつっかかってしまった。
オクリは一瞬、意外そうに俺の方を見たけど、「……ありがとうございます」とだけ言ってまた前を向いてしまった。
………………………。
う〜ん………………
…………………なんなんだ、このむず痒い気持ちは………。
アシレ/オクリ「………………………」
沈黙が続く。
しばらくして耐えられなくなったのか、オクリが話の続きを始めた。
オクリ「……おそらく、ナツオリはあの時に死んでしまったと思われます。でも過去に戻ったとして死んだ人が生き返るわけではありません」
アシレ「ああ」
オクリ「だから私は、電脳世界のこの部分に来ました。丁度2041年の対になっている、この世界に」
アシレ「電脳世界にも部分があるのか?」
オクリ「はい。私の時代は大病を癒す術を失いました。でも、もしかしたら未来にナツオリを救う術があるかもしれない。だから電脳世界の中の2041年に来ました」
おそらく彼女が最初に目が覚めた場所は、昔の電脳世界だったのだろう。
それで、わざわざナツオリを助ける方法を探して2041年まで来た。
アシレ「パラレルワールドってやつだな。さすがにこれは複雑すぎて意味わかんないけど」
入った原因も出る方法もわからない。せめて暗号でも良いから手がかりを置いておいてくれたらいいのに。
しかも。
オクリのその行動は無駄足だった。
2041年だって、大病を癒す術なんか無いのだ。
俺はその残酷な事実を、彼女に突き付けた。
アシレ「ただ、この時代もウイルスまみれだ、と」
1人がお気に入り
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名:スター | 作成日時:2022年1月24日 21時