remember 24 ページ26
「…おい、遊作のやつ。あれ、何してんだ?」
『あのパウンドケーキ。谷町Aに貰ったらしい…。あれ眺めてもう1時間と46分立ってる』
「それ逆に怖くないか…?」
『遊作のやつ、本気で恋煩いしてるみたいだぞ』
「遊作が…?あの遊作だぞ?」
「……聞こえてるからな」
営業時間は終わり、店仕舞いした後のキッチンカーの中。遊作は眺めていた包をテーブルへと置き、二人の方を向く。こそこそと彼に聞こえてないつもりで話していた草薙とAiは、聞こえていたことに気づくと咄嗟に口を閉じ、手で口元を抑えた。遊作は自分がおかしいということはわかっているようで、ため息をついて視線をパウンドケーキの方に戻した。
あのティーパーティー後、結局全部は食べきれなかった。封を開けてしまった袋に入ったコンビニ菓子は全て平らげ、持ち帰れそうな手作りのものは最初に包んでいた袋に入れて持ち帰える。その中で、遊作は彼女の作ったブラウニーとパウンドケーキを許可を貰って自分の鞄へと入れ込み、放課後の帰路をふたりで歩いて帰った。それが今目の前にある包だ。
『食わないなら俺にくれよ〜』
「お前のどこから摂取するんだ?」
『む…それはそうだけど……』
二人の会話に入り込むようにジャービスのメッセージがパネルに届く。最近では、三人の会話の中にジャービスも入ってくるのは日常化していて、遊作達は驚きもせずそのメッセージを一瞥した。
『遊作はどんなお菓子が好き?そのパウンドケーキは君の好物だから持ち帰ったのかい?』
「…別に、好きとかはない」
『へー、ずっと見つめてたくせに…』
「黙れ」
Aiの呆れた声に、遊作が怒りを見せるとAiは縮こまってやれやれとポーズをとった。遊作はそれに苛立ちながらミュート機能へと切り替える。Aiは声のない姿で怒りの動作を示すも、彼はスルーしてパネルの方を見た。
「……強いて言うなら、胡麻のクッキー」
『へぇ、意外。何故だい?』
「俺もそれは知らなかったなぁ、遊作がクッキー食べることも」
「何故…って別に」
咄嗟に口に出ただけで、今まで好きとか嫌いとかは無かった。それなのに…。何故かは自分が知りたいくらいだ、遊作は視線を小包へと移す。セサミクッキー、それが初めて口にしたものだから。クッキーを食べたことがない訳じゃない、なら何故初めてなのか。遊作は考えることを放棄する。これ以上はまだ。
不意に頭に浮かんだ彼女の姿はきっと気の所為だ。
48人がお気に入り
この作品を見ている人にオススメ
「オリジナル」関連の作品
感想を書こう!(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)
暁(プロフ) - とても面白いです!!次の更新楽しみにしています!! (2019年10月8日 12時) (レス) id: dd077ce83e (このIDを非表示/違反報告)
はな - 続き読みたいです!面白かったです (2019年4月16日 1時) (レス) id: 87d0cab806 (このIDを非表示/違反報告)
ヒナコ(プロフ) - 続き楽しみにしてます!頑張れ〜恋愛一年生、遊作! (2019年4月6日 21時) (レス) id: c6a15fa920 (このIDを非表示/違反報告)
しゅりんぷ(プロフ) - ねこみこさん» コメントありがとうございます。お返事が遅れてしまい申し訳ありません。とても嬉しいお言葉ありがとうございます、ご期待に添えるよう更新頑張ります。 (2019年4月1日 1時) (レス) id: a80e55b6ef (このIDを非表示/違反報告)
ねこみこ(プロフ) - とても面白いです更新頑張ってください! (2018年7月3日 22時) (レス) id: 185c2ad794 (このIDを非表示/違反報告)
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名:しゅりんぷ | 作成日時:2017年9月22日 17時