remember 21 ページ23
「谷町」
「あれ、どうしたの?」
「やる」
Aの前、ことっ、と音を立てて置かれたそれに彼女は視線を移す。
昼休み、いつもの屋上。Aはいつも通り、パックに入ったジュースを飲みながらフェンスに凭れ掛かり、端末をいじっていた。彼が昼にここに来ることは少なからず、だが多くもない。この学校の生徒は屋上に滅多に足を踏み入れないため、今日もここでは二人きりだった。
「…藤木くん、これ」
「……こういうのは嫌いだったか?」
「いや、好きだけど」
持っていた端末を置き、目の前に置かれた黒のリボンのついた髪飾りに手を伸ばす。シンプルだが、ひらりと揺れるリボンの紐が可愛らしいバレッタにAは目を丸くした。意外、という言葉しか出てこないのは仕方が無い。何せあの藤木遊作がこれを昼まで持ち歩いていたのだ。勿論それだけではない、藤木遊作がこんな女性ものを持っているという事実にも驚きが隠せないのは当然。
「……街で買い物した時に」
「うん」
「……くじで当たった」
「すごいね、私そういうのティッシュしか当たったことないや」
欲が出ちゃうからかな、とカラカラ笑うAに遊作は顔を逸らす。
くじで当たったのは嘘ではない。草薙の経営するホットドッグ屋の買い出しで、たまたまレディースブランドの商品券が当たったのだ。草薙も遊作も男、レディースの商品券など使い道がないと嘆いていた時。草薙が一言。気になる谷町ちゃんにプレゼントでもしてあげたらどうだ、と遊作にその券を譲り、挙げ句の果て、その店の中に押し込んだ。遊作は珍しくあたふたしながら店の中で数時間、悩んだ末に買ったのが、今彼女の手元にあるバレッタ。会計時、店員に彼女へのプレゼントですか?と聞かれ、Aiが咄嗟に返事した事には今でも殺意が湧く。
「似合う?」
「…似合うものを選んだつもりだ」
「そう、なら期待に応えられたかな?」
簡易的なハーフアップへと髪を結い、その結び目部分をバレッタで留めた姿を彼女が遊作へと見せる。彼は気まずそうに、遠回しに似合っていることを伝えるとAは嬉しそうに笑った。
自分はどうかしている、彼女の笑う姿を見て渡した事に喜びを感じてしまっている。遊作はその事に溜息をつきそうになる。
「藤木くん、ありがとう」
「…どういたしまして」
微笑む彼女の後ろ髪、バレッタのリボンがゆらりと揺れた。
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暁(プロフ) - とても面白いです!!次の更新楽しみにしています!! (2019年10月8日 12時) (レス) id: dd077ce83e (このIDを非表示/違反報告)
はな - 続き読みたいです!面白かったです (2019年4月16日 1時) (レス) id: 87d0cab806 (このIDを非表示/違反報告)
ヒナコ(プロフ) - 続き楽しみにしてます!頑張れ〜恋愛一年生、遊作! (2019年4月6日 21時) (レス) id: c6a15fa920 (このIDを非表示/違反報告)
しゅりんぷ(プロフ) - ねこみこさん» コメントありがとうございます。お返事が遅れてしまい申し訳ありません。とても嬉しいお言葉ありがとうございます、ご期待に添えるよう更新頑張ります。 (2019年4月1日 1時) (レス) id: a80e55b6ef (このIDを非表示/違反報告)
ねこみこ(プロフ) - とても面白いです更新頑張ってください! (2018年7月3日 22時) (レス) id: 185c2ad794 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:しゅりんぷ | 作成日時:2017年9月22日 17時