5話 ページ6
「あれ、アゼラさんは着替えないの?」
「ああ。年下の男なんかと遊びたくはないな。あんたは楽しみなさいな」
心なしか少ししょんぼりしている、リズ。そんな顔をするな、と元気付けると、そうだね、と何時も通りの幼稚な口調で言った。
彼女は、不思議な人である。
精神年齢は分からないし、声は幼い。なのに、綺麗な敬語を使ったり、よく裏事情を知っている風だ。
そして、他を寄せ付けぬ儚い魅力を持っていた。
まず、銀色の髪と瞳から可笑しい。アゼラの周りは皆、茶髪に鳶色、たまに黒の瞳なのに。
やはり、【月の欠片】、【太陽の雫】が、神サマが創った玩具、だという噂は本当なのだろうか。
他の人とは全く違った容姿のあの子を見ていると、信じられなかったその噂が、妙に現実味を帯びて頭に絡み付いてくる。
行ってくるね、と手を振ったその子に、手を振り返す。あの子が、神サマの玩具かどうかなんて、どうでもいい。
ただ私が、のうのうと平静に暮らせていれば、それ以外どうでもいいのだ。
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リズside
例の人は、まだ来ない。先程お菓子を一旦片付けに行った侍女の事を考えても、もう10分は経っているはず。
円周率を延々と求めるのにも飽きが差し、今はどんどん継ぎ足していく3角形を何個も合わせた図形の、面積を求めている。一般人だとひかれることらしいが、全能の【智】の中では、これは普通なこと。
つまり、一般人と全能の一番の違いは、思考の違いなのである。一般人の方が、幼稚で、狭義で、人道的。全能は、大人びていて、迚も倫理に欠ける思考を持っている。
だから、全能は一般人に嫌われる。それを知っているから、全能の中で、アントワープを出ようとするものはいない。いても、それは一般人と全能のハーフのみ。
面積を求めることにも、もう飽いた。何時まで来ないんだ、と流石に怒りが心頭に達する、というとき、目の前の扉が唐突に開き、その向こうから宵闇の色の髪をもつ少年が顔を見せた。
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作者名:馬酔木姫 | 作成日時:2017年2月4日 16時