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何回目かの失恋の後、俺は本気で自分の世界に引きこもることにした。


フェロモンに過敏に反応し、何度恋人を悲しませただろう。

誘惑されるどころか、体が受け付けずに距離を取らないと気分が悪くなる始末。

「阿部くんといても、辛いだけ」

「子供が欲しいって言ってたのに」

「結局なにがしたかったの?」



さようなら。

形は違えど、降り積もった別れは今も消えることはない。





奥まった所にひっそり佇む本屋で俺は働きだし、穏やかな日々を過ごしていた。

来るのは物静かな常連さんばかり。

いつしか、何に対しても必要以上に心が動かなくなった頃、大介と出会う。



来客を知らせるベルの音が店内に響く。

そろそろAさんが取り置きの本を取りに来られる時間だと思い、キーボードを叩く手を止めて挨拶をした。


「おはようございまーす」

「あ、えっと」


唐突に常連さん向けの声をかけられて、困惑気味のお客様。

新規の方にやってしまったようだ。同時進行ができない自分が恨めしい。

Aさんと決めつけてディスプレイ越しに言ったのが失敗だった。



「突然お声がけしてしまってすみません」



とっさに出た言葉が微妙に的を射ていない気がする。

そんなことが引っ掛からないほど、入り口で所在なさげな姿が俺の心を奪った。


少し長めの黒髪からこちらを窺う目はくりくり。スッと通った鼻筋と愛らしい口元。

野暮ったいスーツを着ているのがもったいない。


そんな彼の小さめな、それでいて通る声も良い。


「いえ、俺もびっくりしてすぐ返事できなくて」

「今回はこちらの落ち度ですので、気になさらないでください」

「阿部さんの挨拶、あったかいなと思ったので、俺はむしろ嬉しかったです」


提げていたネームプレートをさっと見てフォローするところから、更に彼への関心が増していく。




この人は、好きになってもいいのかな。

そう思いつつ、この気持ちは止まらないと分かっていた。


「ありがとうございます」

*→←春色の恋 [absk]



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作者名:べす | 作成日時:2021年3月31日 16時

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