Snow cover (ページ32)

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「俺、阿部さんのこと嫌いになれないです。初恋だからかな」

思いがけず彼の剥き出しの心に触れて、こっちも全力でぶつかっていってしまった。
最後に零れた本音は、きっと届いていない。

電話の時に第９世代と言ったから、発作の影響を受けないように重装備な救急隊の人にしっかり頭を下げて見送る。搬送中に発作起こしたら一大事だから俺は置いてけぼり。

しばらくぼーっとしていたらどんどん怖くなってきて、フラフラしながら行くはずだったお店に向かう。

おれ、ちゃんとできたのかな。

責める声も、褒めてくれる声も聞こえるはずがない一人ぼっちの道を歩く。

「佐久間くん」
「めめだぁ」
「なんか、元気ないっすね。うっかり通り過ぎそうだったでしょ？」
「ん、だからゆっくりしたい」

めめはスーパーイケメンな上に優しいから、イートインスペースじゃなくて、奥に通してくれた。

「毎回思うけど、お弁当屋さんなんだよね？」
「いや、それは後付けで。あ、お客さん来たんで休んどいてください」
「ごめんね。後で話聞いて？」
「俺で良ければ」

ニコッと笑っためめに手を振って、机に突っ伏す。

俺が遅刻しなきゃ、阿部さんは怪我しなかった。

どれだけ見ないふりをしても、これだけは揺るがなくて。

出会ってほんの少ししか経っていないのに、いろんな阿部さんを見た。

最初に目が合った時、メガネがちょっとズレるくらい焦っていた。

かなり前のめりになって雑誌を勧めてくれて嬉しかったな。

ノリノリだった自己紹介には結構びっくりした。

１個下だったことにもびっくりして、うまく言葉が出なくなったっけ。

『阿部ちゃん』って、今日の最後くらいに言いたかったな。

声が裏返っちゃったときはあざと過ぎたよね。逮捕だよ。

楽しみだったって笑ってくれたのが凄く前みたいに感じる。

苦しそうに話していたのは、きっと怪我の痛みだけが原因じゃない。

戻ってきためめに抱きついて散々泣いた。

背中をさすってもらいながら、もう全部話した。

阿部さんのことから、会社での愚痴まで、モヤモヤしてたこと全部。

「めっちゃ引っ込み思案だった佐久間くんが、こんなに話してくれて嬉しいです」

めめが余計に泣かせてくるから、病院からの連絡に気付いたのは少し後になった。

「手伝えることがあれば、何でも言ってくださいね」
「ありがとう」

家に帰って、命に別状はないという連絡にまた泣いたのは内緒。