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「阿部ちゃーん」
「はぁい」


いつの間にか従業員と常連さんの中で浸透したあだ名が聞こえてきて、パタパタと在庫確認から表に出る。

カウンターの前で待っていたのは、


「佐久間さん」
「やっと来れました」


ふわふわとした笑顔と声が、彼の多忙さを物語っている。

呼んでくれた人に軽くお礼をしてから、まっさらな雑誌を手渡す。

返ってきたものは開き癖ひとつなく、綺麗な状態だった。

アニメへのというか、作品に関わる全てへの愛が伝わってくる。


「お仕事の方は大丈夫ですか?」
「大丈夫って言うと嘘になっちゃうんですけど、貸してもらえたおかげで頑張れました!」
「そうなんですね!」


思っていたより声が弾んで、ちょっと恥ずかしい。

声も若干ひっくり返ったから、佐久間さんも目をぱちくりしている。

顔に集まってきた熱を逃がすために手で顔を扇ぐ。


「なんか某通販番組の社長みたいに…」
「いや、かわい…じゃなくて、ギャップ萌えですよ!」
「すみません…」


いたたまれない。あと可愛いのはあなたです。

なんで手挙げてるんですか。小学生か。


「はい佐久間さん」
「お礼、したいんですけど、空いてる日ってありますか」
「直近だと明日ですね」
「明日かぁ」


ううむ、と考える佐久間さん。

気持ちが先走って明日とか言ってしまった。事実とはいえ困って当然だ。


「最近ウチの近所にできたお店、行きませんか」
「喜んで」


即決だった。さっきの間は一体。



そこから先は帰ってからやりとりをして、今は待ち合わせ時間の10分前。

何回かあくびを噛み殺すのは、昨日の寝不足から。なかなか寝付けなかった。

人のこと小学生とか言えない。つらつら考えているうちに、待ち合わせの時間。

携帯を見ると同時に、「もう少しかかります(汗)」というメッセージが。



「ごめんなさい!!」
「いえいえ。昨日もお疲れみたいでしたし」
「もう社会人失格ですよね…」
「実は俺も昨日あんまり眠れてなくて」


楽しみだったので。

そう続けると、花が咲くように笑う。
まっすぐ胸に届く喜びに照れてしまって、無造作に一歩踏み出した。

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作者名:べす | 作成日時:2021年3月31日 16時

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