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家に帰って、無駄にゆっくり貰った名刺を裏返した。
なんでこのIDは覚えてたんだ、とか、
『語りませんか』の『語』と『ま』の間にねじ込んだような『り』はどうした、とか、
慌てたせいか黒とかじゃなくて緑のインクで書いてるな、とか。
色々思うことは出てくるのに、肝心の「連絡するか」という問題の答えが出てこない。
さっきからトークアプリを開いたり閉じたり。
適当に履歴画面をスクロールしていると、1人の名前が目に留まった。
ぱぱっと話を飲み込んでくれる、ちょっと離れて俯瞰してくれそうな人。
阿部で、どうしましょう
舘さん嫌味ってことで良い?
阿部まさか!照はそういうの疎いだろうし、大人な舘さんに相談しようと思って
舘さん俺は翔太以外見る気ないから、どうだろうね。
舘さんでも、頭痛が途中まで気にならなかったってことは、案外どうにかなるかも
連絡先も伝えられずに繋がりが途絶えてしまった翔太のことを、こんな風に言うこともあるギャップも持っている舘さん。
照は言わずもがな。照と書いてギャップと読むからね。テストに出るよ。
とんでもなく魅力的な2人と、出来損ないのαな俺。
一時期は異性からの人気を三分したこともあった。
照は筋トレ、舘さんは翔太、俺は勉強を優先していたから、途中からはアイドル扱い。
それで、アイドルものに目が留まったのかな。
何かする度に上がる黄色い声は、次第に苦手意識を育てるものになった。
いわば陰キャの俺には不釣り合いな好意が怖かった。
それでも人との関わりまで嫌いになった訳ではなく、何よりあの職場は平和すぎる。
こんな所に収まる器じゃない、と僅かに残ったαの部分も囁いてくる。
日陰にいて姿を隠していたようじゃ、スカウトも待ち人も来るはずがない。
IDを打ち込み、表示されたアカウントに1つメッセージを送った。
阿部こんばんは。阿部です。佐久間さんでお間違いないでしょうか。
この確認くらいは仕事と割り切ってやってしまえばいいものを、何時間かかってるんだ。
詰めていた息をふぅ、と吐いたところで、返信が来た。
佐久間さんはい!!アニメオタク兼会社員の佐久間大介です!
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作者名:べす | 作成日時:2021年3月31日 16時