友だち以上元カレ未満【mfmf】

32日目 ページ33

適当に髪を拭いて、体の水滴をぬぐって脱衣所を出る前に鏡を見た。



うん、大丈夫。


目は腫れてない。

まふくんに、噛んでごめんなさいってちゃんと謝らなきゃ。









『まふくーん、お風呂あがったよ』

「ん、いい子だね」






ソファに深く腰を落ち着けたまふくんが両腕を広げた。

肩にかけたタオルで滴る水滴をうけとめ、まふくんの上に馬乗りになると

そのまま腰に回された両腕が私を引き寄せる。







なんとなく、目を合わせてごめんなさいって言うのが難しくて

まふくんの肩口に顔をうずめた。




『さっきは噛んで、ごめんなさい』

「…いいよ、俺もきつく言ってごめんね」








うざったく絡みついた私が悪いのに、この人は謝ってしまうんだ。

本当に、こんな優しいお人よしに迷惑をかけてばかりで自分が情けなくない。






「今日、なにか嫌なことあったの？」





私の濡れた髪をタオルで拭きながら、まふくんは聞いた。

ぴくり、体が止まってしまう。





「どうしたの？」





きっと、なにか気づいてくれたんだろう。

それだけは嬉しい。






それでも、言いたくはないのだ。

痴漢されたかも、なんて思い出したくもない。

心配してほしいと、安心させてほしいと

君の心を動かしたいと、そんな肩書を私は持ち合わせていないから。







キスをして、ハグをして、体を重ねるだけで

物理的距離が縮まるだけでまふくんの心に触れられない。





『なんにも、ないよ』















髪を拭く手が止まった。







『ごめんね、わがまま言って』









今の私、笑えてるかな。








「A」

『なぁに？』










あれ、まふくんの目元、少し赤いような。









「話を、したい」

『どうしたの？』







泣いてたのかな、何かあったのかな。

それは私が聞いてもいいことなのか、分からない。

まふくんの男泣きの理由を聞いてもいいのはきっと、彼女か相棒だけだから。








「髪乾かして、ベッドで待ってて」




お風呂入ってくる、と

それだけ残して行ってしまった。









『まふくん…？』









どうしてそんなに、震えているんですか

33日目→←31日目

→ 目次へ｜作品を作る｜感想を書く
他の作品を探す