37. ページ38
.
長期任務から帰り、ちょっと休憩だと布団の上でダラダラと横たわっていると、邪魔するぜェと久しぶりに聞く声。
急に体が軽く感じて、飛び起きた。
軽く身なりを整えながら、急いで表に出ると、
そこに居た実弥さんは無傷の私を見るなり、
短く息をつき、流石だなと頭を撫でた。
心配してくれたのかな…？
煉獄さんとはまた違った感触でワシャワシャと頭を撫でられる。
少し乱暴なその手が何だか久しぶりで、心地いい。
見上げると慈しむように私を見つめる目。
そんな目で見られると泣きそうになる。
ごめんなさい、
私はそんな優しい目を向けてもらえる女じゃない。
涙が溢れそうになるのを唇を噛み締めて耐えると、どうした？と聞く実弥さんの声色はどこまでも優しくて。
失いたくないと躊躇してしまう。
でも、これ以上隠す事は出来ないから……
『………ごめんなさい、私、ずっと嘘をついていました。本当は、あの恋文………別の方に送った物なんです…』
しん…と静まり返った屋敷に
遠くでジリジリと鳴く蝉の声が妙に響く。
じんわりと滲んだ汗が垂れると、
少しの間を置いた実弥さんの口述に私は言葉を失った。
「煉獄だろォ？」
驚いて実弥さんを見れば悲しそうに、寂しそうに笑っていて、悪かったァとまた私の頭を撫でた。
「Aが言い出せねぇのをいい事につけ込んだ。謝んのは俺の方だ。」
『……つけ込む、なんて……私が…言い出せなかっただけです。実弥さんに謝ってもらう様な事…』
実弥さんは悪くないと必死に首を振る私に
呆れるよう溜息をついた実弥さんは、だったらと私の頬を包んだ。
「コレで勘弁してやらァ」
頭に押し付けるように落とされた口づけを最後に実弥さんは
「じゃーなァ、A」と私の屋敷から出て行った。
A……
久しぶりに実弥さんから呼ばれた呼び方に胸が痛くて
堪らずその場に蹲った。
実弥さんはいつから気付いていたのか。
どんな想いで今まで接してくれていたのか。
実弥さんの気持ちを考えると胸が張り裂けそうになる。
もうきっと今までの様には接してもらえない。
もうあの笑顔は私に向けられる事はない。
もうあの声で「A」と呼んでくれる事はない。
息が出来ない程苦しくて、
泣く必要も、資格もないのに涙が止まらなかった。
ごめんなさい、ごめんなさい。
譫言のように繰り返して、長期任務中ずっと持っていた実弥さんから貰った貝殻をぎゅっと握りしめた。
.
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 370人がお気に入り
お気に入り作者に追加
この作品を見ている人にオススメ
この作品を含むプレイリスト 
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告感想を書こう！(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)
あさひゆうひ(プロフ) - 京華さん» ナニシテンノ？おめめ心配。寝ろ寝ろ寝ろ。 (2月5日 5時) (
レス) id: 62b927337a (このIDを非表示/違反報告)
京華(プロフ) - 初コメント失礼致します(いやこれ何でコメントしてないの？え？読んでたよね？と困惑。バグってんの？まぁいいや←)一気読みしてしまいました。惚れてくれてる実弥イイ！笑いながら読んじゃいました。眠いのに実弥熱が沸き起こって眠れないけど寝ます。また書いて。 (2月5日 1時) (レス) @page50 id: bb9635485e (このIDを非表示/違反報告)
あさひゆうひ(プロフ) - なおさん» 完結して随分経つ話にコメントありがとうございます！とっても嬉しいです！鴉たち頑張りましたー！ (2022年7月28日 23時) (レス) id: 62b927337a (このIDを非表示/違反報告)
なお - 鴉すごっ！天才やん そしてあさひゆうひさんもこのお話を考えれるなんて天才だよー 天才過ぎてヤバイ 不死川さんたちお幸せに！！ (2022年7月26日 22時) (レス) @page50 id: ee464fdcd2 (このIDを非表示/違反報告)
あさひゆうひ(プロフ) - 環さん» 環ちゃん！久しぶり…！まさか読んでくれたとは!!!オチを書きたいだけのお話でした。コメントありがとう！とっても嬉しかったです♥ (2022年4月7日 23時) (レス) id: 9c7376e839 (このIDを非表示/違反報告)
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
