【d!】白【男主】 (ページ1)

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淀んだ空気とそこらに倒れた人間の呻き声だけが渦巻くスラム街。
その一角の建物でドンドン、と荒々しく扉を叩く音が響いている。その扉が閉ざす部屋の中で、むくりと起き上がった影があった。

『おしごとですか』

白いシーツが敷かれたベッドから体を起こした少年が扉の向こうへ問いかけた。
スラムに住んでいる子供にしてはやや肉付きが良いが細い体、まだあどけなさが残るが中性的で美しい顔。露出の多い服から覗く白い肌を窓の外の月が照らしている。

扉の外からの返事はない。

『…すこし待ってください、すぐに準備します』

少年は慣れた様子でベッドサイドテーブルに置いてあったアクセサリーを手に取り、自らを飾り付けると、全身を膝下まで隠す黒いマントを羽織って扉の前に立った。

『準備できました。開けていただいてもいいですか』

少し間をおいて、扉が開いた。隙間から漏れ出す光が顔を照らし、少年はやや眩しそうに目を細めた。

『ありがとうございます』

少年はマントのフードを深くかぶり、うつむいたまま目の前に立つ男にペコリと頭を下げた。
名前も知らないし、特に何をしてくれたわけでもないが、礼を言わねばひどい目に合うことを知っている。ここはそういう世界だ。

「今日はうちのお得意様だ。何をされても従順でいるんだ。もし逆らおうとでもしたら分かってるよな？A」

『…はい。お客様は神様で、その命令はぜったいです。よろこんで従います』

「返事が遅い」

『も、申し訳ございません、ご主人様』

大人しく従順なAを見て男はふん、と鼻を鳴らした。いつもならここで平手打ちの一つでも飛んでくる所だが今日は違うらしい。
やはりおとくい様とやらは特別なのだろうか、とぼんやりと考えるAの頭に顔布が着けられる。

『今日は舞と楽器だけですか？』

目の前が白い布で覆われて完全に視界が塞がれた。そのままAがいつも弾いている琴が手渡される。

「そうだ。だが今日は体を触られようが何されようが絶対に拒否するな。いいか、絶対だぞ」

『はい』

いつもと違う命令にAは戸惑う。いつもなら体を触られたりあやしい動きをされたりすれば警備員が駆けつけてくる。他の子供よりも大事にされている自分でも殺されても構わないらしい。
そう気づき、思わず琴を抱きかかえる腕に力が入った。

首に繋がれた紐を引かれて歩かされる。
どうか殺されませんように、そう願いながらAは車に乗り込んだ。