26 ページ26
.
ブオオ、とドライヤーの音と共に髪の間を温風が駆ける。
「ん、済んだ。」
「ありがとう、ございます。...なんだか心地よすぎて、眠気が出てきますね。髪を乾かすのを心地よいと感じたのは初めてでした。」
「そんなら丁度良いからもう寝んぞ。はよ寝支度しろ。」
そのまま洗面台に押しやられ、歯を磨く羽目になった。
就寝時間としては比較的早めの時間帯であると思うのに。
「済んだんか。」
ソファで携帯に落としていた視線を上げ、勝己くんがこちらを向いた。
と思ったら次の瞬間にはぐらり、と重心が傾ぐ感覚。
「っきゃ...！お、降ろして下さい...！かっ、勝己くん...っ、寝室までぐらい自分で行けるったら...！」
「るせ。耳元で喚くなや。」
勝己くんは御構い無しに私を横抱きにしたままズンズンと寝室へ向かう。
重たい素ぶりなど露ほども見せない、鍛えられた腕にすこしドキリとする。
寝室へ入りベッドに降ろされるとぼふり、と大きな布が被さった。
ふかふかの布団から顔を出すと、照明を消した勝己くんが隣に滑り込んで来る。
布団の中でぐい、と体が意思に反して大きく動く。
気付けば頰に分厚い胸板がついていた。
ぎゅ、と抱き込まれる。
「寝んぞ。」
「...はい、おやすみなさい。」
「ん、おやすみ。」
厚い胸板はあたたかくて、筋肉の弛緩している胸筋はとても上等なクッションのようだった。
規則的に上下する揺れが心地よかった。
......勝己くんの、心臓の音。
ドクリ、ドクリと体越しに深く波打つ音が響く。
勝己くんが.....居る。
充満するニトロの香りの心地よさに、いつのまにか深く息をつく。
あったかくて、とても、気持ちいい...
こんなに、安心、という感覚を得たのはいつぶりだったろうか...
そう思ったのを最後に、気付けば陽光がカーテンの隙間から漏れていた。
「...A、起きたんか。」
頭のすぐ上から掠れた声が降ってくるのにドキリとする。
「あれ...、私、いつの間に寝て....。夢のひとつも見ませんでした。」
驚きに目を丸くしていると、勝己くんが満足そうに笑った。
「よく寝れたみてーだな。っし、昨日は入眠まで15分だったな。」
次は10分だ、と息巻いている勝己くんに困惑する。
すると額に柔らかいキスがひとつ降る。
「起きてもちゃんと俺が居ただろうが。
お前には、俺が居るわ。
だから、安心して寝ろ。」
きゅう、と心臓が小さくなった感覚がした。
.
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 365人がお気に入り
お気に入り作者に追加
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告感想を書こう！(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)
泉(プロフ) - Runaさん» あぁ、出会って下さってありがとうございます....！そんなに読み返して頂けるなんて本当に幸せです。神かはわかりませんが、だいぶ初期の作品にも関わらず自分でも褪せない、大好きな作品です。 (7月4日 22時) (
レス) id: 250c48e64a (このIDを非表示/違反報告)
Runa - なんか、なんか…！めっちゃお洒落っていうか！儚いって言うか…！！とりあえず好きです！！！三回ぐらい読み返しました！！こういう作品を神って言うんだなぁ…と思いました(*^_^*) (7月4日 20時) (レス) @page50 id: e8de5457df (このIDを非表示/違反報告)
泉(プロフ) - ぽむさん» こちらこそありがとうございます、今出会って頂けただけでも嬉しいです^^ (2021年12月22日 18時) (レス) id: 250c48e64a (このIDを非表示/違反報告)
ぽむ(プロフ) - なんだこの素敵な作品はこんな作品に出会えたことを感謝です。てか！もっと早く出会いたかったです。ありがとうございました。 (2021年12月22日 13時) (レス) @page50 id: 10c6d472ea (このIDを非表示/違反報告)
泉(プロフ) - モコ‐シファールさん» あーもうアー...もこさん好き...アー涙出る。。全部嬉しいです...もこさんとまたお話がしたいがために次作書いてしまいそうです笑。悲恋が苦手で、夢主たちを幸せにする事で自分も救われている部分があります。またもこさんとお話できたらいいなぁ。。 (2018年11月26日 16時) (レス) id: 54e9f26b3f (このIDを非表示/違反報告)
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名：泉 | 作成日時：2018年10月19日 19時
