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「........まぁ俺は、別だろうけどな。お前は、礼を言ったが、俺は──、
お前を、利用しに来たんだよ。」
自嘲でもなくどこか遠くを見るようにカツキは呟いた。ああ、気まずい、理由ね。とAはどこか納得しているような表情で聞いていた。
「利用、ねぇ。」
「俺の肩には一族の復権がかかっている。次期頭目だからな。」
「復権？」
目を丸くしてこちらを覗き込むAの顔は、10年経って確かにしっかりとした大人の顔になりつつあるのに、その表情はどこかあどけなく、カツキは言葉を濁した。
「まぁ、追々な。」
本当は、言い上げてやるつもりだった。王国側の人間、それも、王族だ。一族のこの境遇を、作り上げている張本人と言って過言でない。
Aだと言われても半信半疑だった。だが目の前に、確かにAが居るのだ、王女だと名乗って。
目の前のAに、この状況を、真実を言い上げ突きつければ、どうなるか。......どんな、顔をするのか。10年の隔たりがあるとは言え、この丸い瞳を前にして容易く予想はついた。たとえ、それが願望であろうとも。
その結果、カツキが選んだ言葉はそれだった。まだ、その時でなくていい。そんな思いが胸に満ちていた。
「........俺ぁ、姫様に恩を売りに来たんだ。後の褒美のためにな。」
「それでも、救けてくれたのは事実よ。
だから、ありがとうは間違っていないわ。」
「ったく、めでてぇヤツだな。
お前のジジイは、もうちょい強かだったぞ。おら。」
目で促されて、Aが手のひらを広げるとそこにコロンと物が乗った。硬い手触りのそれは、髪飾りのようだった。
「ここに来る時に、目隠しになるようにっつって魔力を込めた魔石をジジイにもらった。
それが最期だと悟ってたんだろう、ジジイは俺を利用するっつってこれを寄越してきた。
ンで奪還作戦が終わった時、魔石は役目を終えて割れた。
そうしたら、これが出て来た。」
お前に、渡せってこったろ。と言ってAを見ると、その薄い色の瞳になみなみと涙が揺れていてカツキは思わず焦った。
「こ、れ....お祖母様の、バレッタ........。
じ、ちゃ、ドレスはダメだって言った、のに......っ
これは、お祖母様が国を守ってくれる、お守りだって、大事に...飾ってあったのに..........！」
その花飾りが彫り込まれた象牙のバレッタを両手で握りしめて、とうとうAは声を上げて泣いた。
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作者名：泉
| 作成日時：2023年11月12日 22時
