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キリシマは最後、震える声でそう言って、こちらに顔を向けた。
「.....俺は、あの日誰かを守るための強さを見た。
本当の強さを、俺は見つけたい。だからこの旅に志願した。
でも、旅に出るやハザマは幼馴染の世話も焼くし、普通の女の子でさ。
余計にやるせねぇよ。俺も、アイツみてぇに頑張れるヤツに、なりてぇ。」
「...........そうか。」
カツキはそう呟いてから、瞬き始めた夜空を見上げた。
ああ、俺にとってこの旅は、
Aを知る旅なのかもしれない。
デクの語るロフォフォラのA。半分王子の語る王族としてのA。ジロウや、キリシマ、何人もの語る、王女らしくて、王女らしからぬA.....。
それらが段々と、聞く度鮮明なイメージとして脳内に再生されるようになる。
俺たちの間にあった空白の10年が、少しずつ埋まって行くような。
そう思って静かに目を閉じた。
もう！カツキもキリシマくんも！冷えるって言ってるのにほらもう寒いじゃない！とAがぷりぷり怒鳴り込んで来たのは、この後の話だ。
ふわ、と踏んだ草とも苔ともとれないような植物に、足音ひとつも沈み込んでしまった。
Aは片足を持ち上げて、地面を見つめると訝しい顔をした。
「どした。」
後ろからやってきたカツキが短く声をかける。
「......山が、おかしいの。
前来た時はこんな茂り方はしていなかった。それに、なんだろう、熟れた匂いがする....。」
「俺にはただの茂った森にしか映らねぇけどな。時期的なもんじゃなくてかよ？」
うん.....と呟いて、Aはぎゅっと眉根を寄せた。
「光脈筋が.....ずれてるんだわ......でもなんでこんな急に.........何の意図があって.............」
最後はカツキに向けたものでなく、ぶつぶつと思案するように呟いてそのままふらりと歩き出すAに、カツキは眉を上げて続いた。
しばらく茂る草木をかき分けるようにして一同は進んだが、木立が切れて開けた場所に出た。
「うわ、ぁ.........気持ちいい場所......と思ったんやけど....。」
「こんだけ立派な滝が流れてんのに、なんつうか、植物が元気なようには見えねぇな。」
俺が山に慣れてねぇだけか？とショートはイズクに問いかけるが、イズクは眉を下げた。
「いや、なんか、僕もいい気持ちは、しないな。こんな山初めてだよ。」
それぞれの言葉を背に受けて、先頭のAはきゅっと唇を噛んだ。
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作者名：泉
| 作成日時：2023年11月12日 22時
