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いつものように、カツキが集めた薪を並べて火をつけようとしていた時だった。
「カツキ、ひとつ聞いておいて。」
小屋用の薪を同じく抱えたAが、しゃがんでいるカツキに合わせて体を屈めて言った。
カツキは目の前にサラサラと音を立てて流れる栗色に目を奪われていたが、それでもAの声は流れるようにカツキの耳に入った。
「あまり、ここではナーガを自由にさせない方がいい。
ここはリリョウ様の治める土地よ。あの方は一介の竜が侵入したとて気に留められる方ではないけれどね。
かの黒竜は元々荒神でもあるし、神の前では殊、礼節は守ったほうがいいわ。」
大いなる力の前では、
どう転ぶかわからないものだもの。
そう言って風に髪を靡かせたまま、遠くを見つめた薄い色の瞳は、憂いを帯びていた。
そのまま風に流されるようにして、Aはふらりと小屋へ戻って行った。
それからしばらくして、夜も更けた頃今度は赤髪の男がやって来た。
「王女さ......いやっ、ハザマが、カツキが入って来ないから心配、だってよ。
山は冷えるからメシ食ったら入って来てっつってたぞ。ナーガはあっちの馬小屋に干し草あるって。」
ん、メシ。と皿を渡しながら、男はどかっと無遠慮に火のそばへ座った。それを横目に湯気の立ち上るシチューに目を落として言った。
「......ったく、どっちが母親だよ。まだ心配しやがって。」
ロフォフォラでのあの頃、Aの口癖は『カツキ、寒くない？』だった。自身やデクの母親からオレが凍傷で納屋に転がりこんだという経緯は伝えられたらしく、雪解けの季節までは日に何回もそのセリフを聞いたし、母親に2人分編んでもらったと言う毛糸の帽子も、Aがせがんでのことだったと後になって耳にした。
Aにとって未だ心配、庇護対象だというその事実に、じわりと嬉しさのような、歯痒さのような感情が差すのを噛み締めていると、隣から声が飛んだ。
「なんつうか、王女さ....いやハザマってさ、普通の王族らしくないってのがデケェんだろうけど！
お前ら幼馴染なんだろ？めちゃくちゃ世話焼くし。思ってたより、普通の同年代だよな。」
ははっ、と眉尻を下げて漏らしたのは、どんな意味合いの笑みなのか微妙に量り損ねた。
「思ってた、ってどんなだよ。
オウジョサマらしさを思い描いとったんならアイツは規格外だわ。」
キリシマは、今度は明け透けな苦笑で顔をいっぱいにして喋り始めた。
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作者名：泉
| 作成日時：2023年11月12日 22時
