71 ページ23
.
で、だ。
カツキは感傷から一気に思考を現在に切り替えた。これは彼が時期頭目としての地位を獲得しているその理由の内のひとつだった。
この幼き日の感傷をしてイズクが『君の初恋だろ』などと称してきたことは気に入らないが、そんな特別な想いを抱えていたことは確かで。
そしてそれを、別の誰かが同じくAに対して抱えていて。
それも、俺の知らない、Aの王女としての側面に惹かれて
「かーーーーつき。」
バッ！と思わず声から距離を取ると、Aが屈んでこちらを見ていた。その後あははっと声を上げて笑ったので酷くばつの悪い思いをした。
「〜〜〜おいっ、魔力消して近付くなや。」
「ええー、だって、普通のかくれんぼじゃつまらなくなって、カツキと私だけ魔力消しバージョンよくやってたじゃない。うふふ、そんなに跳ね飛ばなくても。」
カツキ、10年のブランクが響いてるわよ、とまだおかしそうにしながらAは得意げに笑んで言った。
クソ、あどけない顔はそのままのくせして、綺麗に笑いやがって。苦々しく見つめていると、あることに気がついた。
「あ"？そういやお前、頭の草どうした。生えてねぇな。」
Aは一瞬きょとりとして、ああ、と漏らした。
「よく覚えてるわね。
王都に移る少し前には生えなくなったのよ。
断ったの。もう生やさないで、って。」
でも気を抜くとまた生やそうとしてくるから、都度都度断らなきゃいけなくて面倒。そう聞き覚えのある口調で煩わしそうに言うA。
まるで、大きな力と、対話でもしているようだ。
そう頭の中で過ぎって、ああ、コイツは変わらず、特別なのだと思った。
「.......ふーん。」
「だって王都で生えたまんまだと、草姫とか言われちゃうじゃない。」
「ぶっ、くくっ....！おま....」
「もう、笑いごとじゃないんだからねっ。」
それよりごはんだよって、呼びに来たのよ、ほら笑ってないでっ。そうむくれながら、Aが俺の手を掴んで引っ張り起こした。
その細い手の温かさと、未だ込み上げてくる妙な可笑しさとで。なんだかもうどうでもよく思えて。
ぷりぷり怒っている栗色の後頭部を見つめながら、Aの引っ張るまま宿に連れられて行った。
.
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 12人がお気に入り
お気に入り作者に追加
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名：泉
| 作成日時：2023年11月12日 22時
