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Aは、特別だった。
周りは王族というのを周知していて、というのもあったかもしれないが、それでもあの村の連中は大人も子供も、親戚の子にでも接するように皆が皆Aを可愛がった。Aはいつでも人の輪の中心で笑っていた。
それでも時折、その花が咲くような笑みからかけ離れた表情をしている時があった。
誰も居ない草原で、向こうにそびえる遥かな山の方を見つめて佇んでいることがしばしばあった。
吸い込まれそうなほど静かで。こんな季節にこんな花が咲くのか、と思うような大量の花弁が、風に舞ってAに纏わりついていた。
どうしてか少し不安になり、どうした、と問うと呼ばれているのだとAは説明した。
少し困ったような、それでも山を見つめる瞳の奥底には透き通った青い光が湧き立っていた。その視線は憧憬のように見えた。
俺が村に滞在することになった当初、Aはいつも頭に花冠をしていて、よっぽど花が好きなのだと思っていた。
だが共に過ごすようになり気付いた。いつ見ても青々と茂るそれ。
『オイ、それ生えてんのか？』
『え、うん、そうだよ。取っても取っても生えてくるの、面倒くさい。』
そう言ってAはバサバサと頭をかき乱して見せたが、花や葉は散っただけで抜け落ちたそばからすぐに芽吹いた。俺は目を剥いた。
この村ではこれが普通なのかと疑問に思い、Aの母親に尋ねたことがあった。
『そうねぇ、Aはきっと山の加護を受けてるのねぇ。花冠してるAかわいいわよねぇ.....！』
と返答され脱力した。
山の加護。己の故郷でもそれは存在するし、自分も火の加護を受けている身だ。だがそれはその土地に生まれた人間はまず受けるものでただ1人というわけではない。
見たところA以外にこの村で草の生えたヤツは居ない。
そこまで考えて、カツキはAの静かな青い瞳を思い出していた。
(ああ、きっとAは
人間じゃない。
精霊かなんかの使いなんじゃねぇか。)
いつもの自分なら御伽話の見過ぎだと鼻で笑ったはずだ。ただどうしてか、その仮説はやけに自分の中でしっくりと、腹に落ちてきた。
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作者名：泉
| 作成日時：2023年11月12日 22時
