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Aはただでさえ丸いのにその瞳を更に丸くした。
「これを渡せば親父は喜んで婚約を無かったことにするだろう。
それじゃ俺が困るんだ。俺は、Aを妻にしたい。
だから、このままこれは俺が預かっておく。そしてAの手助けをして魔軍を討ち倒し、ユーフォルビアから危機が去ったなら、それは我がオテロイから危機が去ったも同じだ。
婚約に、何の支障も無くなる、だろ？」
ふわっ、と、微笑まれてAは返す言葉が咄嗟に出ない様子だった。
「心配するな、婚約のことは現状白紙でいい。俺を婚約者だと思わなくていい。
ただ、この戦いが終わった後、全部を清算した後に。
改めて返事を聞かせてほしい。」
できるなら、政略結婚というだけじゃなく、俺はお前の心も欲しい。
他のメンバーには聞こえない程度の声量で、Aの耳元で王子は囁いた。苦々しい顔をしていたのはカツキだけだった。
「そういうことだ。
悪いが俺も同行させてもらう。ただ、ユーフォルビアを救いたいという気持ちはこの旅のメンバーと同じだ。俺のことは王子扱いしなくていい。」
ちょうど歳も同年代ばかりみてぇだしな。一同は困惑した表情を見せたが、王子の砕けた物言いに納得することとした。Aは少し赤い顔をして、その空気に押される形で了承した。
こうして様々な思惑のもと、ユーフォルビアを救わんとするメンバーが増えたのを、カツキは複雑な心境で受け入れざるを得なかったのだった。
その日、山を越え麓まで降りた一行は小さな宿場町で宿を取った。
しかしカツキはこの日も野宿のつもりでいた。別に意外と打ち解けるのが早かった王子が居るのが気まずい云々ではないが、自身の考えを整理したかった。
(いい加減、闇雲に気分が悪ぃのも気に食わねぇ。)
こんなに虫の居所が悪いのは明らかに半分頭の王子が現れてからだった。そこは否定しない。
自身とて、褒章として一族の復権を掲げ王国に認めさせると言う、不純な動機でここに立っているのだ。別に半分王子が婚約破棄阻止のために参戦するとしても何も問題は無いだろう。
『俺が妻として迎える姫は、Aしか居ねぇと思ったんだ。』
(ああ、アイツが、
特別だからか。)
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作者名：泉
| 作成日時：2023年11月12日 22時
