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「ショートくんのお心遣い、たしかに受け取りました。ユーフォルビアは大丈夫。
夜が明けたらここを発ちましょう。私はショートくんに、お父様を、オテロイを諦めてほしくない。
ユーフォルビアのAから、この戦禍、両国のため婚儀は白紙にてお願いしたき所存と。民の反感情を得てはならないためどうか内々に、とお父様にお伝えいただきたいの。」
チッ、とカツキは思わず舌を打った。あっさり掌を返してきた隣国、そしてその国王が望む都合のいい言葉をあえてAが選んだのだ。
まぁそんな輩と婚儀を進めるよりはましかもしれないが。それでも、Aには罵って婚約破棄を言い渡せるぐらいの権利はある状況だ。それなのに。
「魔との対峙はあっても周辺諸国との紛争は無用。これは建国の祖、お祖父様の意思であり、私の意思よ。
まぁ正直、援軍が得られないのであればそれどころではないのは明らかね。」
小ざっぱりと本音を転がしたAは、策士と言うには似つかわしくないがそれでも有無を言わさぬ力があった。
「今夜中にオテロイ陛下への文をしたためておくわ、明日の朝にはそれぞれ発ちましょう。
寒くなってきちゃったわね、入りましょうか。」
そう微笑まれて王子は大人しく山小屋へと足を向けたのだった。カツキはこの会合とも告白現場とも取れぬ時間が終わって内心胸を撫で下ろした。
(まぁ援軍もねぇってことだし依然王国の窮地に変わりはねぇってことだな。
助太刀したって王国側に意識されなきゃ意味がねぇからな。このまま行きゃアピールのデカさは申し分ねぇ。)
カツキはとにかく安堵した。居心地の悪い内容の盗み聞きが終了したし、自分の方策も手筈どおりだ。それで内心しっかりと胸を撫で下ろしてその場を立ち去った。
「ごめんなさい、蜜蝋も王家の紋も城に置いてきてしまったの。代わりに封が血判で申し訳ないのだけれど。血には魔力がよく溶けるから、陛下も私の魔力を感じて下さることでしょう。
それではショート殿下。父王陛下に何卒宜しく御伝達のほどお願い申し上げます。道中の安全を祈念しております。」
明くる朝、Aは文の入った筒を王子の手にぎゅっと握らせた。カツキからすると手渡すだけのものになぜあんなに手を握らねばならないのか疑問でならない。これが王族とのギャップというやつなのか。
そう思った矢先王子がその手を握り返して言った。
「すまねぇが、これは俺が預かる。」
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作者名：泉
| 作成日時：2023年11月12日 22時
