66 ページ18
.
カツキは木立の落とす影の中、苦虫を噛み潰したような心持ちだった。なぜ自分がそのようにダメージを受けているのかも判然としないまま、ギュッと拳を握るより他なかった。
そこで木立の向こう側から涼やかな声が飛んだ。
「あの子がショート殿下だったなんて.......私もあの夜のことは今でも覚えています......。」
「殿下、は無しにしねぇか。俺も、Aって呼びたい。.....嫌じゃ、なかったら。」
「ふふ、そうね、見栄を張る必要がなくなったわ。じゃぁショートくんにするわね。私もAでいいよ。」
くすくすと和やかに笑むその空気に焼かれそうなのは自分だけだという事実にカツキは余計にダメージを食らった。
「でもね、お父上が仰ったことは非情だけれど、国の判断としては正しくもあると思うわ。
ひとつ陛下の仰ったことで真実であるのは、婚儀を執り行う前であった、これが不幸中の幸いということよ。」
「なっ、親父のことはっ、気に
「いいえ、それはユーフォルビアにとってもよ。」
「.......、ッ」
Aの意味するところがわかって、王子は言葉を飲み込むしかなかった。
「我が国としても、この魔軍進行という負債を抱えた上で同盟を結ぶことは難しいし、何より、オテロイと手を取り合える状態にないのが明らかになった。
大きな国ですもの、隣に危険が迫っていれば、まずは自国の民を守ることを考えるのも、トップとして正しいわ。ショートくんのお父様のお人柄とはまた別の問題でもあると私は考えているわ。」
悔しさを滲ませて唇を噛むショートに、Aは「ね？」と宥めるように微笑んだ。
「ショートくんの想ってくれる気持ち、とても嬉しいわ。
でもね、王族の婚儀とは、
私は、そうすることで、この国の役に立ちたいの。この国から注いでもらった愛情に、恩返しがしたいのよ。」
好きな人が居るわけでもないし、ね？と苦笑いしたAに、王子はそれきり言葉を発せなかった。
.
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 12人がお気に入り
お気に入り作者に追加
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名：泉
| 作成日時：2023年11月12日 22時
