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ショートは拳を握った。あの日の父親の決定を、今でも許せないでいる。ユーフォルビアへの魔軍進行を知らせる伝令が到着したのは、王女が投降した頃だった。
『親父！ユーフォルビアの危機だ、俺が率いる、すぐに軍を！』
『ショート、フユミを見習え、せめて父上とだな
『今はそんなことどうでもいいだろ！ユーフォルビアの、A姫の危機だ.....！』
『お前は......なぜあんな小国の姫に執着する。かの姫はずば抜けた魔力量の持ち主だと有名だ。
お前の炎熱の剣、そして冷気の剣、これに更に膨大な魔力が乗れば我が国はかの英雄オールマイトをも超えられよう。
それでお前の婚約も了承したが、こうなってはな.....。』
ショートはギリッと握った剣の柄が音を立てたのを聞いた。
『......俺は物心つく頃にはすでにこの2本の剣もアンタに握らされてきた。
姫のことも、利用するつもりで承諾したのも知ってる。そんなアンタを俺は利用したんだ。
だが、婚約を交わした盟国である国を捨て置けば近隣諸国が黙ってはいないぞ.....！この国の地位は凋落する！』
王座に座った大男はショートの言葉を冷えた目で見つめていた。
『.........婚儀が執り行われたという事実は無い。不幸中の幸いと言わざるを得んな。
魔軍に支配された小国よりも、お前の将来と、我が国の国防に力を注ぐべき時だ。姫なら他にも居る。』
『.......俺にとっての姫君は、Aただ1人だ。
軍を出さねぇなら、俺は1人で馬を出す！王位継承権はナツ兄に譲る、ごめん、って伝えてくれ。』
ッオイ、ショート！父親の焦った声を背中で聞きながら、王城を後にしたのだった。
「.........これが、私がただ1人ここに立つ理由です。従者は親父、いや父王にどんな処罰を下されるかわからないので全て断りました。
あれから王都ロストラータへ向かいましたが魔族が『王女が逃げおおせた』と騒いでいるのを聞いて、周辺地域をしらみ潰しに馬を走らせるしかなかった。
ここであなたを見つけることができたのは本当に幸運だった.....！」
ギュッと拳を握りしめてそう語る王子に、Aは眉を下げた。
「殿下は.......心あるお方と聞き及んでおりましたが、ここまでこのユーフォルビアのためにしていただけるとは.......。先刻の無礼な質問をお許しください。」
Aはドレスの裾を広げ、目を伏せて礼をした。
「.....いや、実はそんな高尚なものでも、ねぇから。」
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作者名：泉
| 作成日時：2023年11月12日 22時
