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「婚ッ...........、」
たったその一言にカツキはたじろいだ。何せ故郷では耳慣れない言葉だ。
『そりゃAに、嫁の話も来るってもんだなぁ。』
脳裏でジジイの声が再生された。同時に、ああ、王族なのか。と妙な自分の感想が生じた。
そこへ王子から一歩距離を保って、凛とした声でAが発声した。
「しかし殿下との婚儀は決まっていたとは言え、顔合わせは無かったはずです。
なぜ私がお分かりに？そしてなぜ、こんなところに供人も無く？」
その澄んだ目は澱みなく真っ直ぐに言い上げた。それを見た王子はまた小さく笑んだ。
「その目を見ればあなただと分かる。この婚儀、私のたっての希望で実現させたのだから。
そしてユーフォルビア国王女殿下、この婚姻のもと同盟を結ぶはずであった我が国オテロイのこの度の不義、王子として伏して詫びたい。私1人でこの地に立つ無礼をどうかお許し下さい。」
後半はその整った眉根をきつく寄せ、紅白頭は再び跪き頭を垂れた。それを見たAが、どこか遠い目をしたのをカツキは見ていた。
「みんな、今日はこの山小屋で夜を越すとしましょう。
殿下とお話をする必要があるわ。」
そう一同に視線をくれてから、Aは道程で少しくすんだドレスを翻して山小屋へ進んだ。
それからは、これは国政であるとしてAは人払いをした。それを仲間に説明するに際して「婚儀とはね、
紅白頭の王子と一緒に、夕刻とおなじ岸壁に2人は佇んでいる。カツキはその会話を少し離れた場所から聞いていた。狩猟民族だ、視力と共に聴力も際立っている。
Aは人払いをしたが、この話は今後の王政を左右する。即ちこの後の自分の立ち振る舞いにも影響するのだ。一族の頭目として、相手の出方は把握しておかねばならない。
(...........言い訳じみてんな。)
自らの矛盾した思考に頭をかき乱しながらも離れた2人の音声に耳を澄ませた。
「.........あなたは聡明な方だ。的確に状況を把握している。」
「ではやはり........
国王陛下はユーフォルビアをお見限りになったのですね。」
Aの静かな声が、ただ夜空に透き通っていた。
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作者名：泉
| 作成日時：2023年11月12日 22時
