19日目 ページ20
.
少ししてバタバタと駆ける音がした。
「あったあった.....！
はいこれ.....！」
"粗品"と書かれた袋を目の前でバリリと開封し、少しソイツが背伸びをしたと思ったら、
出したそのタオルを俺の頭にふわりとかけた。
俺があっ気にとられて動かずに居ると、ソイツはまた少し背伸びをして「失礼します！」とか言いながらわしゃ、と俺の頭を拭き始めた。
「........ッハァ...！？」
「あ、声出ましたね、よかった。
はい、こっちの新しい方掛けて下さい。」
そう言ってびしょびしょになったタオルを引き取り2枚目のタオルを俺の肩に掛けた。
そして眉を下げて真剣な顔で覗き込んでくる。
「.............お家って、帰れますか....？」
「....ッ、そん、ぐれぇ帰れるわ。」
「良かった......」
なぜか目の前の人間が、酷く安堵した様子で笑ったそれに、胸が痛んだ。
そう思ったのも束の間、今度はソイツがサッ！と道路に向かって手を上げたのに驚く。
その目の前にススーっと黒い車が停まる。
停まったタクシーに頭を突っ込み、手に持っていたビニールをシートに敷きながら金を払っている。
( 何しとんだコイツ。)
そう思いながらぼーっと眺める俺は、ぱっとソイツがこちらを振り返ったのに思わずビク、とした。
「はい、こっちです。」
そう言いながら俺をタクシーに押し込むとビニールの敷かれた座席にぼすんと座らされた。
「はいこれ、あったまるので飲んで下さい。
運転手さん、行き先はこの人に聞いて下さい。」
ぽいと手元にあたたかいボトルが乗せられハッとした。
「お、オイ.....！」
「あ、大丈夫です、タオル粗品なので差し上げます。じゃ、お願いします。」
運転手が頷く。
あっ、最後に。
そう言って自身の鞄から取り出し更に何か手渡してくる。
「帰りにまた濡れちゃったら困りますもんね。返さなくて大丈夫なので。お気をつけて。」
そう言って折り畳み傘の入った袋越しに笑むそいつが、タクシーの窓の向こう、
後ろに流れて行くのを、呆然と見ていた。
.
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 172人がお気に入り
お気に入り作者に追加
この作品を見ている人にオススメ
この作品を見ている人にオススメ
「ヒロアカ」関連の作品
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告感想を書こう！(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)
泉(プロフ) - アリスさん» ありがとうございます！！幸せでしたと言っていただけてほんとに嬉しいし、作者として報われています涙。番外編すごい大役でドキドキしました！笑。出来は大丈夫でした....？苦笑 (2021年9月8日 18時) (
レス) id: 250c48e64a (このIDを非表示/違反報告)
泉(プロフ) - 墨香さん» 最後までずっと、一緒に楽しんでくれてありがとう....！作者側の私も一緒で、お話しさせてもらうことで2人の姿がよく見えてうれしかった...！ (2021年9月8日 18時) (レス) id: 250c48e64a (このIDを非表示/違反報告)
アリス(プロフ) - 完結おめでございます！最後までエスプレッソ読めて幸せでしたぁ。番外編も読めるなんて！！すごくすごく楽しみです！無理せず執筆活動してくださいね！泉さんファンですけど泉さんが楽しんで書けるのが1番ですから(^^) (2021年9月6日 16時) (レス) id: 71330da3c5 (このIDを非表示/違反報告)
墨香(プロフ) - まずは完結おめでとう…！そして美味しいエスプレッソをありがとう！味わって飲み干しました！ほぼ毎話更新される度にみづちゃんとお話しさせてもらってて、お陰でかちゃと拾瀬ちゃんに思い入れもひとしおです！番外編も楽しみにしてる(*^^*) (2021年9月5日 22時) (レス) id: 8cb5df290f (このIDを非表示/違反報告)
泉(プロフ) - アリスさん» わあ、勇気出して書いて下さって本当に嬉しいです....！前の作品まで読み返して頂けてるなんて....そして、夢主というか、物語の主人公、扱いして下さるのが嬉しくて....じいんとします。私の作品を愛してくれて、本当にありがとう、とても嬉しいです....っ！ (2021年9月2日 21時) (レス) id: 250c48e64a (このIDを非表示/違反報告)
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名：泉 | 作成日時：2021年8月12日 18時
