44 silkside ページ10
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「あれ？ぽんは？」
ダホが荷物を下ろしながら聞いてくる。寝室を指さして「そういう時期」と言うと数回頷いて普通に話し始めた。
一昨日ぐらいからボーッとしているなあとは思った。笑顔も引きつっていたし、飯もあんまりって感じ。Aは数ヶ月に一回酷く落ち込む時があった。
そういう時、Aが纏う空気は儚くて、見てるこっちがヒヤッとする。…居なくなってしまうんじゃないかと、不安にさせられる。
ダホと撮影の準備をしていると寝室のドアが静かに開いてAがひょこっと顔を覗かせて「ダホちゃん、おはよ」と小さく笑った。
「おはよー ぽん、これあげるよ」
「んー？」
ダホがコンビニの袋を渡す。それを覗いたAは微笑んで「食べていい？」と袋からフルーツ入りのゼリーを出す。
「ん！食べて」
「ダホちゃんは？」
「撮影終わったら食べようかなーって！シルクの分もあるよ！」
「…今食う。ぽんは？」
「食べるー」
「ん。ここおいで」
荷物を退けて自分の隣を指すと袋を俺に渡しながらAが座る。少しだけ触れている右手の指先が冷たくてゆっくりとその手をなぞる。
「なあに」
「なんでも。」
袋からゼリーを全部出して「何食うの」と聞くと「これもらう」と一つ手にしてダホに「ありがとう」と笑いかける彼女はやっぱりどこか不安になるような雰囲気だ。
「…あ」
「あー、気をつけろって」
「はい ティッシュ」
ゼリーの蓋を剥がすとうまく剥がれなかったのかAの手からゼリーの上の水分が滴る。
ティッシュでそれを拭き取りながらキッチンで手を洗って俺の隣に戻って来たところにスプーンを渡せば「ありがと」と言いながらゼリーを掬ってひとくち。
「…おいし」
緩んだ頬に俺もダホも安心して笑う。
「俺のぶどう入ってるからあげる」
「わーい 桃あげる」
「ありがと〜」
俺を挟んで交わされるスプーン。ふとした時に、こういう日々が嬉しくなるのは、きっとメンバー全員一緒だ。
「動画撮ったらコンビニ行く？」
「んー、ご飯作ろうか？」
「あ！俺久しぶりにぽんの飯食いたい！」
「食べたいもの作ったげる」
「マジ？んー、どうしよー」
「俺、麺食いたい」
「あ！いいね！スパゲッティ！」
「じゃあ先に買い物行ってくるね」
「お前一人で大丈夫かよ」
「それぐらい大丈夫」
気分転換を重ねて、笑う回数が増えて、いつものAに戻っていくのを傍で感じるのは俺の特権。
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作者名：yuyu | 作成日時：2018年5月20日 3時
