53 (2) Masai side ページ36
─Masai side
数時間後、すぅすぅと寝息をたてるAを確認してシルクにLINEをすると《すぐ行く》と返事が来た。
インターホンの音で起こしてしまっては、と思い《着いたらLINEして》と送る。
待機していたのか、シルクは割とすぐ来て俺を見るとばつの悪そうな顔をして鍵とAがまとめていたのであろう荷物を俺に渡す。
「…A 泣いてたけど」
「話、聞いた？」
「いや。話さなそうな感じ」
「そ、か」
「なあシルク」
シルクの顔を見て分かった。何かを引き金に、Aに対して何かを言ってしまったんだろう、と。
喧嘩するのは今に始まったことじゃない。Aも怒りながら俺に話をすることもある。それならまだいい、ただ、泣かれるのは俺だって見ていて腹が立つ。
「今度泣かせたら A、俺んとこ来させるよ」
何度喧嘩したって、すれ違ったって、離れられないのは知っている。
お互いに離れたくないと、依存していることはもちろん分かっているし、敵わないと何度も何度も思っていた。
でも、俺はAに笑っていて欲しい。
甘やかしてるって言われてもいい。
幸せになって欲しい、そう思っていたけれど シルクと喧嘩をして泣き顔を見せられるたびに悔しかった。
「俺ならもっと大切にできたのに…っ」
「マサイ、」
「…実家帰るんだっけ。息抜きしてきたらいいよ。Aのことは心配すんな。」
息を吐いて、なるべく冷静に言うとシルクが唇を噛む。
「さんきゅ よろしくな」
「あぁ」
扉が閉まっていく。シルクの顔が悔しそうに歪む。瞬間、ドアがもう一度開いて「俺！」と声を上げる。
「こんなこと言う資格ないけど、Aのこと手放す気、ねえから…」
「…シルクが悪いなら嫌われる前に謝った方がいい」
眉を下げて情けない顔をして、扉は完全に閉まった。
あいつのことが好きだ、と俺に言って
首裏の見えないところに自分のものだとシルシを残して
なのに感情的になってAを傷つけて。
シルクも不安なんだ、きっと。
心のどこかで俺に取られてしまうと感じている。
俺たちはいつからこんなに欲を出すようになったんだろう。
そばに居れればそれだけでいいと思っていた俺たちはいない。
「俺のモノに、なんないかなあ」
望むぐらい、いいだろ。
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作者名：yuyu | 作成日時：2018年5月20日 3時
