1話 ページ2
＊＊＊
「やっぱここバカあちぃな」
「夏の照明室は地獄だって毎回言ってるだろ」
今日の仕事は、役者たちが演技プランを考えている間に照明室の中で照明プランを考えること。必殺仕事人ばりに早々に仕事を終わらせてしまった俺は、蒸し蒸しした暑さに頭をやられてぼーっとしたままでいる。
ぼーっとしていると、視界が悪くなる気がするのは俺だけだろうか。出窓の向こうで舞台に上がっている役者の顔が判別できない。そうするとやけに聴覚が研ぎ澄まされて、隣で賢人が照明プランを台本に書き込んでいる音、外の暑さを象徴するような蝉の鳴き声、照明機器を動かすコンピューターの作動音までもが耳の中で反芻して、内側から俺を溶かしていくみたいだ。
「寝るなよ」
「寝ないよ」
「だってお前眠たそうだぜ」
「だって仕事終わって暇なんだもん」
「はーそうですかそうですか。才能があるって素晴らしいですねぇ」
「別に」
別に、とか言ってみたものの、実際才能というものは存在していると思う。勉強やスポーツはあまり出来ないけど、照明だったら話は違う。
頭の中に劇場が浮かび上がって、そこに色とりどりのサスペンションライトやボーダーライトがシーンに合わせて役者に当たる。それが想像できるから、照明プランなんて一瞬で完成するし、必ず俺のプランが採用される。賢人は毎回頭を悩ませながら照明プランを捻り出し、毎回俺に負けている。
今日も今日とて、塾の合格実績が載ったうちわを仰ぎながら時折うーんと唸っている。34℃の気温にやられた脳にはそれが滑稽に見えて、含み笑いをしてしまうところを自分の腕で隠した。仲がいいとは言えども、嗤っているところを見られるのは色々とまずい。
「才能あるから、Ωなのに仕事できるんだろ」
そうだ、劣った性別と言われているΩであっても、才能があるから仕事ができる。そう自負している。
さて、その仕事とやらが終わってしまってやることがない。「つべこべ言ってないで進めなよ」と賢人に釘を刺してから、暑さに耐えきれなくなって照明室のドアと出窓を開けに行く。さっきよりは視界良好に感じて、改めて舞台に目を向ける。
最初に目に入ったのは、舞台にただ一人立っている、最近入部した一年の湊川だった。
「『ミナミ、やっと会えた。』」
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 2人がお気に入り
お気に入り作者に追加
「派生作品」関連の作品
この作品が参加のイベント ( イベント作成 )
この作品が参加のイベント 
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告感想を書こう！(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)
Layla - 浅緋さん» 了解しました！ (2020年4月1日 23時) (
レス) id: 1d01e49d2e (このIDを非表示/違反報告)
浅緋(プロフ) - Laylaさん» ほんとですね！笑 よければ春風純弥のテンプレートの方で話しませんか？ (2020年3月30日 17時) (レス) id: dd52665f2d (このIDを非表示/違反報告)
Layla - 浅緋さん» ありがとう御座います…！！あの、同じクラスの同じ部活でした(偶然) (2020年3月30日 15時) (レス) id: 1d01e49d2e (このIDを非表示/違反報告)
浅緋(プロフ) - Laylaさん» 全然いいですよー！w 関係組みましょ！ (2020年3月30日 10時) (レス) id: dd52665f2d (このIDを非表示/違反報告)
Layla - 浅緋さん» 純弥くんかわいくてカッコイいので推します！…うちの塰音と関係組みたi((殴 (2020年3月30日 0時) (レス) id: 1d01e49d2e (このIDを非表示/違反報告)
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
