【呪術廻戦】雨を乞う。⑦【男主】 (ページ21)

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不吉ページ21

一驚(いっきょう)する。

雨の水滴に流されるように。
その霧に溶けていくように。

目を逸らしたわけでもないのに、その姿がいつの間にか、搔き消えていたから。

『⁉』

目を疑い、辺りを見回しても、やはりその姿はなく。
どこに消えたのか、それすらわからずに黒猫を見失う。

あまりに突然の”消失”に驚いて、本当にそれが居たかどうかすら判断しかねるような状況に陥った。
否。
猫は、任務とは全く関係がないんだから。

忙しいこの時期に、勝手をするわけにはいかない。
諦めて戻ろう、そう冷静に考える頭とは裏腹に、全身で感じ取る”嫌な予感”に身を固くする。

そして。

『──────っ、は…？』

ひゅっと息を呑んだ。
一瞬で頭が真っ白になって、何を考える余裕も、間もなく、足がもつれそうになりながら駆け出す。

心臓が早鐘を打つ。
雨の音がざあっと遠のいて、自然と荒くなった呼吸だけが耳に響いた。

嘘だ。
嘘だ。

そんなわけがない。

『…なんで、』

たどり着いたその場所で、呆然と佇み、やがて膝から折れ崩れ落ちるように座り込んだ。

心が追い付かない。
息が詰まる。
そんな、…そんな、わけが。

『頼さん……‼』

…視界に入ったのは、来た時には確かに居なかった、頼さんの姿。
彼は、門から一歩踏み込んだ、石畳の上に倒れ込んでいた。

三年、追い求め、焦がれ続けて、諦めた影が。
今、ここにいる。
限りなく──最悪な形での再会。

『(落ち着け、落ち着かないと、何もできない。何も…)』

頼さんは気絶していた。

抱き上げたときに触れた腕も、体も、冷え切っており。
顔はやつれ、随分と痩せたその身は、記憶していた姿とはかけ離れていて。

口元に手を寄せれば、本当に微かに、息をしているのがわかるけど。
それは今にも消えそうなほど、心もとないもの。

優しい笑顔が。
あの、染み入るような声が。

二度と見れなく、聞こえなくなってしまう、そんな気さえして。

『(嫌だ、…嫌だ。)』

パニックになりかける頭をどうにか落ち着かせ、おぼつかない足取りで補助監督の方が待つ場所へ向かう。

驚いている補助監督の方には悪いが、事情を説明する余裕はなかった。