【呪術廻戦】雨を乞う。⑦【男主】 (ページ19)

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『(…正確には、降っている雨に”禊”を足せれば、それで扱えるんだけど。)』

それはまた、単純に雨乞いをすればいいというわけではないから、難しい。
乞うまでもなく既に降っているのだ、穢れを祓うために、更に雨を降らせれば土砂降りも土砂降りで立っていられなくなるだろう。

「着きました。」

暫くすれば、車が停められて声がかかる。
はい、と返事をし降車、すぐに帳を降ろしてもらい、一歩中に踏み込んだ。

その気配は、微弱。
そして、然程”嫌な感じ”もしないから、まあ大丈夫だろうと、思考しつつ。

本堂の前まで歩いて、音を立てずに手を合わせる。
目を瞑り、指先をピタリと触れ合わせた瞬間。

『……そこか。』

石畳が続く脇道の方から漂う、呪霊の気配を感じ取って、横目で睨んだ。

寺や神社は、崇拝される場所である反面、それ故に邪(よこしま)な気がたまりやすい。
だからこうして、美しく気高い地でも穢れが形を成してしまうのだ。

即座に呪具を引き抜き、水溜りを避けつつ石畳を駆けながら構える。
傘なんて、最初から持っていないから、服も靴もびしょ濡れだが。

そんなことはお構いなしに、多少重くなった袖ごと薙刀を振って、こちらに気づいてもいない低級呪霊を引き裂いた。

『(久し振りに使ったな、薙刀なんて。)』

間合いも広いが、とにかく扱い辛い。
室内戦にも向かないため、俺はあまり使わない武器の部類ではあるけど、今日は気まぐれにコレを振っている。

あっさりと祓われた呪霊に、バシュッと音を立ててあがる帳。
もう終わりか、と思いつつ、薙刀をしまい引き返そうとしたところで、耳を掠める声。

「にゃ～ん」

驚いて振り返れば、雨によって白く霞んだ沢山の紫陽花の下にぽつんと佇む黒猫の影が見つかる。
その猫は金色(こんじき)の瞳を瞬いて、じい、とこちらを見つめていた。

既視感。

違和感。

『…オマエ、あの時の。』

いつぞやに、ウィーンの広場で会った黒猫にそっくりそのままの姿。
態度も、気配も、何一つとして違(たが)わない。

何故、黒猫がこんなところに？あの時は、ただの人慣れしている飼い猫だろうと思ったが。
おかしい。

別の国で出会った、全く己に関係のない猫と、自国に戻ってきてまた出会う、なんてことはそれだけで多大な違和感を抱かざるを得ない。