【呪術廻戦】雨を乞う。⑤【男主】 (ページ1)

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翌朝。

ホテル独特の、布団の重み。
気だるいような感覚と、寝不足気味の頭を抱えて、起床した。

身体を起こして、荷物を、ヴァイオリンを放り出して倒れ込むなり寝てしまったことを思い出す。
服装はスーツのままで、シワが寄っていないことに安堵しながら、とりあえずとシャワー室に入った。

タオルで頭を拭きつつ、楽なものに着替えて、ベッドに座る。
若干の頭痛に眉を顰めながら、昨日のことを考え始めた。

『(…ウィーンに戻ってきていたのか？)』

あの駅の周辺にいた、ということは、彼は今ウィーンに居るということだ。
俺が隣の州に拠点を移した、ちょうどこの頃に。

流石、頼さんだとでも思えばいいのだろうか。

まず、ウィーンで目撃させ、情報を送る。
飛んできてから捜索を終えるくらいの、つまりは五ヵ月間の間はウィーンから離れ、俺の意識が他の州に向いたころに、戻ってきたということだろうか。

それなら、俺の行動パターンは大体読まれていて、その上で彼は俺から逃げていることになる。

『(逃げられて、いる。)』

見つからないように、姿をくらまして、俺から遠ざかっている。

もし、そうだとするなら、俺は。
俺はこのまま、彼を捜していていいのか？

頼さんは俺に会いたくないんだと、そう、…思わざるを得なくて、心が苦しくなった。

決意が、支えられてきた心が折れそうになった時、振動する端末。
ほとんど無意識にそれを取って、電話に出る。

「…A？」

耳に届いたその声に、息を呑む。
誰がかけてきたのか確認せずに出てしまったが、そういえば、朝は悟と通話をしているんだったと、瞬時に思い出した。

そんなことすら忘れるほど、あまりに色々なことが起きていたから。

『さと、る。』

ぽつりと名前を呟くのが精一杯だった。