3-5 ページ18
僕は結局、ユリ先輩が卒業するまでの1年間、ずっと図書委員をやり続けた。
1年間の間でユリ先輩と会話したことあるのは片手で数えられるくらいの回数で、たまに本を借りる時にほんの少し喋っただけだ。
それでも、ユリ先輩について多くのことを知れた。
文字がすごく綺麗なこと、
声は中性的だったけど想像していたより低かったこと、
放課後に熱心に勉強していたのは学校の授業とは関係ない、美容だったり食事や運動についてのこと、
どんな時も姿勢が綺麗なこと、
夏場は日差しを避けて窓側とは反対の端の席に座ること。
ユリ先輩の美貌は、全部本人の努力によるものなんだって知って、僕はますます好きになってしまった。
「あれ、こんな日も図書委員の仕事あるんだ?」
「え、」
ユリ先輩の卒業式の日、勇気をだして最後に話しかけようとした。
でも、卒業式の後、すぐに姿を探したけどどこにも見当たらなかった。
もう帰ってしまったのかと落胆して、ユリ先輩との思い出を1人で振り返るために図書室に行ったら、そこになんとユリ先輩が現れたのだ。
「これ、返すの忘れてて」
そう言ってユリ先輩は僕の所に来ると、鞄から取り出した本を差し出してきた。
僕はそれを呆然としながら受け取る。
「俺が卒業して嬉しいでしょ?」
「え?」
「俺みたいに図書室最後まで使うやつ、もういないだろうから」
この1年間、ずっと君が放課後担当してたよねと笑いながら言われた。
ユリ先輩に覚えてもらえたことが分かって、僕は死ぬほど嬉しかった。
「1年生だから仕事押し付けられたのかなって心配してたんだよ。だから来るの遠慮しようかなって思ってたんだけど、逆にいつも君だから気を遣わなくていいかなって思うようになって、毎日のように来ちゃってたけど、大変だったよな?」
「そっ、そんなことないです!!それにこれは自分からやりたいって言って……」
僕の言葉を聞いて、ユリ先輩は少し驚いていたようだった。
それはそうだ。
わざわざ放課後に残る仕事を自分から進んでやるなんて、普通ならありえない。
変に思われただろうかと心配になったけど、ユリ先輩は「本当に本が好きなんだね」と、良いように解釈してくれたようだった。
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 272人がお気に入り
お気に入り作者に追加
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名：萩焼 | 作成日時：2022年10月2日 21時
