能ある鷹は爪を隠す ページ9
-
スマホのアラームが鳴ったのは早朝6時の事だった。
暗がりの中、Aは上半身を起こして呼吸を整える。酷い頭痛だ。汗で寝衣がひっついて気持ち悪い。なんだか凄く嫌な夢を見ていた気がするが、内容はよく覚えていない。
「…最悪な目覚めやわ」
重い身体を動かしベッドから立ち上がる。そのまま台所に向かい冷蔵庫からペットボトルを取り出し冷えた水をコップに注いだ。乾いた喉が潤うと、胸に溜まった嫌な物も少し流れた気がした。
DAが用意してくれたセーフハウスにはA以外誰も居ない。それは大阪に住んでいた頃から変わらないが、今はやけに寂しさを感じる。きっと毎日うるさい奴の側にいたからだ。そんな事を考えていたら、またスマホが鳴った。
「はい。Aです。あぁ、…今からですか?……分かりました。すぐ向かいます」
────
お昼過ぎ、リコリコに到着したAは裏口を通って更衣室に入った。…今日はいつにもまして騒がしいな。などと思いながら和装に着替えていると、ゆっくり扉が開き、隙間から千束が顔を覗かせて嬉しそうに笑う。
「おぉ!やっと着いたか。楠木さん?」
「うん。ちょっと話ししただけやけどな。千束にも伝言預かってるよ。定期検診早めに受けにくるようにってさ」
「…あはは、忘れてた。…来週辺り行くよ」
「明日行けばいいやん。お店休みなんやから」
「いやあ、明日は予定が出来る予定だから。…まあそれは置いといて。早く来て!びっくりするよ!」
不思議に思いつつ、千束に促されホールに出ると、一目で騒ぎの原因が分かった。カウンター席にはスーツがよく似合うスマートな男が座っていて、何かミカと話している。赤西司。話題の若手議員だ。隣の艶やかな黒髪の女性は高そうな手帳を開いている。赤西はAと目が合うと人懐っこい笑みを浮かべ慣れた会釈をした。
「それじゃあ僕はこれで。コーヒー美味しかったです」
「ありがとうございました。また機会があればいつでもお待ちしています」
最後にミカと言葉を交わした赤西は立ち上がり、店内のギャラリーの声に手を挙げて答えつつ出口の扉を潜った。
「すっごい良い男だったわね」
「ファンクラブがあるらしいぞ。入ったらどうだ?」
悶えるミズキにクルミが言う。しかしミズキは冷静だ。過去に何かあったのかもしれない。
「馬鹿ね。手に入らない男を追っかけても時間の無駄なのよ」
「合理的じゃないか」クルミはクスクス笑った。
-
88人がお気に入り
感想を書こう!(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)
RIO(プロフ) - わざわざ返事をして頂き、ありがとう御座います! はいっ、これからも応援します! (~^-^~) (2023年1月10日 22時) (レス) id: 9824f121c1 (このIDを非表示/違反報告)
caramel(プロフ) - RIOさん» コメントありがとうございます!素晴らしいだなんてモチベ爆上がりですっ!不定期更新になると思いますが、良ければこれからもお付き合いください☻ (2023年1月10日 20時) (レス) @page14 id: 5ce05d887a (このIDを非表示/違反報告)
RIO(プロフ) - 初コメント失礼します!リコリコ探していたら丁度、気になる作品名があり拝見させて頂きました。素晴らしい小説だなっ!と思いました。続きを頑張ってください!( ' - ' >) (2023年1月10日 14時) (レス) @page13 id: 9824f121c1 (このIDを非表示/違反報告)
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名:caramel | 作成日時:2022年11月26日 10時