第1話 : 『紅き瞳に映るかなしみ』 ページ2
「はい、これでしばらくの間は貧血にならないから。」
『ありがとうございます、先生。』
ついさっきまで、鋭利な針が刺さっていた場所を見つめる。
しかし、既にそこに傷痕は少しも残っていなかった。
「氷侑ちゃん、先生から一つ注意よ。
貴女がこれから入学するのは、日本全土が憧れる、あの国立高等学校のヒーロー科。
きっとこの先、個性を駆使することになるわ。
でも、貴女の場合オーバーワークは命取りになる。
くれぐれもそこだけは、覚えておいて頂戴。」
担当医の治嶋先生は、強い口調で言った。
私は、それに対して軽く頷く。
「さ、あとは薬出しておくからもう行きなさい！
応援してるからね、氷侑ちゃん！」
先生は、30歳とは思えない可愛らしい笑みでグーサインを掲げる。
私は、それに共鳴する様に拳を軽く掲げたのだった。
「遅かったな、大丈夫か?」
『あぁ、心配ないよ。待たせて悪かったね、焦凍。
さぁ、家に帰ろう。』
先生の部屋の裏口から出ると、電子端末に視線を落としていた焦凍が居た。
することがなくなったのか、私＿＿＿否、“ 僕 ”が来た瞬間に片してしまった。
そんな彼の格好は、明日から僕が通う雄英高校の制服。
それを見ると、ようやくここまで辿り着くことが出来たのだな、と思う。
「? どうかしたか?」
『いや、何でもない。帰ろう。』
砂色のコートの裾を、春の微風に翻す。
その背中が世間には、僕が学校を心待ちしている様に見えたかもしれない。
違う、僕は一つも心待ちになんかしていない。
憎悪に満ちた瞳で、目の前に沈んでいく夕陽を見下ろした。
母さん、父さん。それに、凍雨。
皆の仇は必ず、僕がとる。
この時、私は今から始まる物語について、何一つ知ることは無かった。
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作者名：夜河アサ | 作成日時：2017年11月13日 14時
