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「ねぇねぇ!知ってるからね!白鯨の中で半分以上食べたんだよね!」

 乱歩さんの口は止まらない。食べたうえ、白鯨内に置いてきてしまったことも余裕で見透かされ、咎められる。

『すいません』

 謝っておこうと声を出したけれど、顔の腫れや鼻水などが相まって、自分でないような声になってしまう。情けない、と思いながらも、しょうがないか、という諦めの方が勝ってしまう。

「まァ、組合には勝てたンだからさ」

 与謝野女医がそう言っても、乱歩さんはまだ頬を膨らませてぷくぷくしている。

「ふん、いいさ、いつか、一緒に買いに行こ」

 言って乱歩さんは医務室を出ていった。いやファンサが急。かっわ。それから、与謝野女医の視線に気づく。

「A、死ぬンじゃないよ」

 与謝野女医が凛と言う。どうしてか、与謝野女医の真っ直ぐな瞳を見ると、その指示に従おうとしてしまう、瞳に酔っているのか。

 ただ、見つめあって数秒経って、それだけで与謝野女医も医務室を出た。伝えたかったことだけを言って、わたしを一人にしてくれた。きっとこれも、与謝野女医の優しさ。あったかい。


 しばらくそうして浸っていたら、もう一度男女の重なり、わたしを呼ぶ声が聞こえた。それでもさっきよりも若々しい声で、瞬時にそれは敦君のと鏡花ちゃんであると理解する。

 仰いでいた視線を戸の方にむけると、鏡花ちゃんはこちらに近づいて、わたしの頭をよしよししてくれた。いやこちらもファンサが急。そしてお顔がお近い。おかわいいです。

「あなたは、自分の身をもっと大切にしなきゃ、だめ」

 鏡花ちゃんが言う。これまた真っ直ぐな瞳で言われると、否定することが出来なくなる。涙もだいぶひいて落ち着いたわたしは、彼女の言葉に『はい』と答えた。

「いこう」

 鏡花ちゃんが離れる。ふっといいかおりが鼻を掠める。いやだめわたしきもい。えっと、しかし、いいかおりがしたことに偽りはないです。はい。

 そんな意味なき弁解を頭に並べていたら、カーテンに手をかけたまま敦君のが口を開いた。

「僕は馬鹿なので、Aさんの気持ちが、よく理解できていません。だからかける言葉も見つかりませんでした。すみません」

 その突然の謝罪に困惑する。とりあえず『気にしないでね』と声をかけた。すると敦君はこちらを向いて、微笑んだ。OKの意であろう。

 そしてやっと部屋を出ていくかと思いきや、彼は思い出したようにポケットの中をがさごそと漁りだした。

9−3→←9 わたしのとなり



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作者名:うずのしゅげ x他1人 | 作者ホームページ:https://twitter.com/paskfloro  
作成日時:2022年1月28日 16時

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