相澤先生のワンナイト (ページ9)

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９夜ページ9

警戒している動物に近づくように、そーっと相澤先生と距離を詰める。

「…っ」

私が距離を詰める度、相澤先生はさらに自身の顔を操縛布に埋めた。

「…近づかない方がいいですか？」

「大丈夫です。ただ、体が…反応するので」

サキュバスに起因する何かがあるのだろうか。

それをよく分かってあげられない私は、ひとまず彼の近くへ行くことを優先した。

対面する形で、相澤先生の足元に膝立ちで留まる。
少し見上げれば、すぐそこには相澤先生の顔があった。

「Aさん…本当にいいんですか？」

相澤先生から最後の確認をされる。
コクリと頷くと、すぐさま操縛布から顔を出した彼に唇を奪われた。

ピトリと頬に、相澤先生のヒヤリと冷たい手のひらが這う。

私の頬はカァっと熱くなった。

そのせいか体温が溶け合うように、相澤先生の手のひらがぬるく感じてくる。

ただ唇同士を触れ合っているだけなのに、いつもより空間の時間がゆっくり過ぎているような気がした。

チュッとリップ音が響く。

「…治(おさ)まりました…。」

開口一番にそう告げた相澤先生は、じっと私を不思議そうに見つめる。

その視線の先は私の唇に注がれていた。
そしてそのまま、確信するように彼は頷いた。

「あの、Aさん。ありがとうございました。」

「い、いえ。そしたらまた明日も同じ時間位に、でしょうか？」

「はい。ご面倒お掛けしますが、よろしくお願いします。」

畏まった雰囲気でそう告げられた。

「そういえば、Aさんって香水つけられるんですね。その甘い香り、俺は好きです。」

まるで言い逃げるように、そう一言告げた相澤先生は事務室を去っていった。

当の私は頭にはてなマークが浮かぶばかりだ。

「私、香水つけてないんだけどな…。」