相澤先生のワンナイト (ページ12)

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12夜ページ12

ヒシヒシと、相澤先生の焦れったい視線を感じる。

すると何を思ったか、相澤先生は私を手近にあった椅子へ座らせた。

そして背後から、背もたれごと私を抱きすくめる。

「Aさん…」

チュッと頬に軽いキスを1つ。
そして、キスした場所を猫のようにペロリと舐めた。

「あぁ、やっぱり甘い」

チュッと頬に軽いキスを2つめ。

「止めようと思っても欲しくなるんです」

チュッと頬に軽いキスを3つめ。

そして私の目の前へやってきた相澤先生は、ゆるゆると頭を撫でてくる。

今までに無い甘さ加減に、とろけてしまいそうだ。

昨日までは、ただキスをして個性をやり過ごすだけの、ビジネスライクな関係だったのに。

数時間個性の対応が遅れただけで、こうも相澤先生は変わってしまうのか。

突然の事に私が頬を染めていると、ボソリと彼は呟いた。

「甘くて美味しそうで…」

撫でる手を止め、グイッと相澤先生が距離を詰めて来る。

そして唇が触れそうになる寸前で顔をとめた。

暗闇で、顔色はハッキリとわからない。
だが、微かに聞こえるのはお預けをくらったように息を悶えさせる吐息。

確実にそれは目の前の相澤先生から発せられていて、苦しそうなのは明らかだった。

途端、彼はバッと後ろに飛び退き私から離れる。

雑に取り出した錠剤ケースから、薬を何粒か片手に開けて、バリボりと飲み下した。

そして縋るように寝袋を掴む。

「…俺は、今何をしようとしていた…」

ボソボソと呟きながら、ジワジワと私との距離を離していく。

大丈夫かなと、私は彼へ手を伸ばした。

「来るな!」

キツめに声を荒げられる。
びっくり半分に私は手を引っ込めた。

「今触られたら、無理やりあなたを抱いてしまいそうだ…。」

シンと静まり返った空間が広がる。
微かに聞こえるのは、相澤先生の吐息。

色欲を理性で押さえ込もうとしているのか、相澤先生は手繰り寄せた寝袋に顔を埋めた。

暗闇に慣れてきた私は、遠くからその様子をただただ眺める。

どうするのが正解なのかわからない。

ただ、近づかない方がいい事だけ、分かってしまった。

情けなくも、今の自分は彼に何も出来ないんだと知り、ひとりぼっちになったような感情に苛(さいな)まれる。

とりあえずそっとしておこう。
私は寮の自室へと帰って行った。